デイサービスをやっていると、利用者さんから突然こう言われることがあります。

「行きたくない」
「行ったってしょうがない」

こういう言葉を聞くと、最初は体調不良を疑います。
実際、しんどい時もあります。

でも現場で何度も見ていると、それだけではないことが分かります。

高齢者の「行きたくない」の裏には、

  • 疲れ
  • 痛み
  • プライド
  • 恥ずかしさ
  • 昔の記憶
  • 人との距離感

が隠れていることがあります。

今回は、ある利用者さんが突然デイを拒否し始めた時の話を書きます。
そしてそこで分かったのは、拒否の原因は今の出来事ではなく、もっと古い傷だったということです。


突然「行きたくない」と言い出した利用者さん

その方は80代の女性でした。
要介護2、杖で歩行される方です。

認知症はありません。
ただ、思い込みがかなり強いタイプでした。

脳梗塞の後遺症で左側に麻痺があり、言語障害もありました。
そして、知的障害のある娘さんと二人で暮らしていました。

この方は、昔住んでいた村でいじめを受けた経験がありました。
そのため、人との交流にはかなり臆病なところがありました。

ただ一方で、人に話を聞いてもらえることはすごく嬉しい。
慣れた人たちの中では、会話も運動も楽しんでいました。

だからこちらとしては、比較的安定して通えている方という認識でした。

でも、ある日から突然こう言い出したんです。

「私は行きたくない」
「行ったってしょうがない」

そして、そのまま休みが続きました。


最初に確認したのは体調。でも大きな変化はなかった

こういう時、まず職員に確認するのは体調や普段の様子です。

  • しんどそうだったか
  • 何か体の変化があったか
  • 誰かとトラブルがあったか
  • 落ち込みがあったか
  • 前日までと違うところはないか

今回もそこを確認しました。

でも、大きな変化はありませんでした。

職員からは、
「そういえば少し他者との会話が減っていたかもしれない」
という話はありました。

ただ、その時点ではそこまで大きな異変とは見えなかった。
そういう時もあるだろうくらいの受け止め方だったようです。

ただ、この方は本当にコミュニケーションが大事な人でした。
話を聞いてもらえることが、かなり嬉しいタイプだった。

だから僕の中でも、
「体調だけじゃないかもしれない」
という感じはありました。


原因は、新しく入った利用者さんだった

この方のお宅に行って話を聞くと、最初は

「体調がしんどい」

ということでした。

でも、よくよく聞いていくと、別の話が出てきました。

少し前に新しく入ってきた女性の利用者さんが、
自分が昔住んでいた地域で、自分をいじめていた人だというんです。

しかも、知的障害のある娘さんもパニックになっていました。

「あの人、お母さんをいじめた人なんでしょう」
「また何か言われるんじゃないの」

という反応でした。

この方が昔住んでいた地域は、差別を受けやすい土地柄だったようです。
だから本人の中では、

  • また差別されるかもしれない
  • 昔いじめられたことを他の利用者さんに話されるかもしれない
  • 自分の居場所がなくなるかもしれない

という恐怖につながっていたんだと思います。

つまり「行きたくない」の正体は、
体調不良ではなく、昔の傷が刺激されたことによる拒否でした。


本人の訴えを聞いた後に、まずやったこと

この時、僕はまず謝りました。

「そういうことがあったんだね」
「嫌な気持ちにさせてしまったね」

ここは、事実確認の前に必要だと思っています。

なぜなら、思い込みだったとしても、本人の怖さや嫌さは本物だからです。

そのあとデイに戻って、新規利用者さんのことや、その曜日の空気を改めて調べました。

もし本人の言っていることが本当なら、曜日調整も必要です。
逆に思い込みなら、それはそれで丁寧に説明しなければいけない。

調べた結果、新規利用者さんは他府県から来られた方で、その方が昔住んでいた地域とはまったく関係がありませんでした。
つまり、本人の思い込みでした。

さらに、他の利用者さんとの会話を見ても、その新規利用者さんが誰かを悪く言うような様子は全くなかった。

ここで僕がやったのは、
本人の主観(怖さ)は100%本物として受け止めた上で、客観的な事実を一つずつ切り分けること
でした。

「そんなことないですよ」で終わらせるのではなく、

  • 怖さは本物として受け止める
  • でも、事実は事実として丁寧に確認する

この順番を間違えると、たぶんこの方は戻ってこなかったと思います。


この件に魔法の言葉はなかった

正直に言うと、この件には魔法の誘い文句なんてありませんでした。

もしあるなら、僕が知りたいです。

今回は、本当に丁寧に説明していくしかありませんでした。

しかも相手は、思い込みが強い方です。
一回説明したら終わり、ではありません。

まずパニックになっている娘さんに説明する。
それから本人に、一つずつ説明する。

  • 同じ地域の人ではないこと
  • 昔の知り合いではないこと
  • 他の利用者さんを悪く言っている事実もないこと

何度も確認されました。
そのたびに、何度も同じように伝えました。

この方は他の利用者さんとは長い付き合いで、仲の良い人もいました。
だから、いきなり曜日を変えて、そのつながりを切るのも違うと思いました。

しかも新規の利用者さんも、他の介護サービスの都合でその曜日しか利用できなかった。

そう考えると、この場面で必要だったのは、
配置換えより、まず誤解を解いて安心を取り戻すことでした。

そして最終的に、本人は

「じゃあ、また今度行ってみます」

と言ってくれて、次から再び来てくれるようになりました。


拒否の裏には「今」ではなく「昔」が入っていることがある

この件でかなりはっきり分かりました。

利用者さんの拒否は、今起きていることだけが原因じゃないことがある。

目の前の新規利用者さんが原因に見えても、本当はその奥に

  • 昔の差別体験
  • 昔のいじめ
  • 過去に傷ついた記憶
  • 自分の立場がまた危うくなる不安

そういうものが入っていることがあります。

しかも高齢になると、その記憶は今より強く出ることがある。
今の説明だけでは動かない理由が、そこにあります。

だから「そんなことないですよ」で終わらせると、逆にこじれます。

管理者として必要なのは、
今起きている言葉の裏に、何の記憶がつながっているのかを見ること
なんだと思います。


この件で変わったのは、新規利用者さんを見る視点だった

今回の件のあと、自分の中で一つ変わったことがあります。

それは、新規利用者さんが入ってきた時の見方です。

以前は、

「新しい利用者さんが来たら、みんな自然に馴染んでいくだろう」

くらいに思っていたところがありました。

でも今は違います。

新しい人が入ることで、その曜日の空気がどう変わるか。
既存の利用者さんがどう感じるか。
この人の登場で、誰かの昔の傷や不安が刺激されないか。

そういうところまで、意識するようになりました。

つまり、利用者さんが増えることは単純なプラスではない。
その人が入ることで、既存の空気がどう変わるかまで見ないといけない。

この件を経て、

新規受け入れは単なる増員ではなく、その曜日のコミュニティを再編することなんだ

と考えるようになりました。

これはかなり大きな視点の変化でした。


まとめ|「行きたくない」の裏には、高齢者のプライドと昔の傷があることがある

今、読者に一番伝えたい結論はこれです。

高齢者の「行きたくない」は、体調だけが原因とは限りません。
その裏に、プライドや昔の傷、差別された記憶、人間関係への恐怖が隠れていることがあります。

今回の件では、体調不良に見えた拒否の裏に、
昔のいじめ体験と差別への恐怖がありました。

だから必要だったのは、

  • 無理に励ますことでも
  • 勢いで連れてくることでもなく

本人の怖さを一度受け止め、事実を確認し、誤解を一つずつほどいていくことでした。

以前は、拒否が出たらまず体調や環境を見ていた。
でも今は、それに加えて

「この人の昔の傷やプライドが刺激されていないか」

まで考えるようにしています。

そしてもう一つ。

新規利用者さんが入る時は、その人自身だけでなく、
その人が既存利用者の心に何を起こすか
まで見るようになりました。

デイに行きたくない。
その一言の裏には、今の問題ではなく、昔の痛みが入っていることがある。

それを知っているだけで、管理者の対応はかなり変わると思っています。

最後に、こういう利用者背景の見立てや、拒否の裏にある理由を整理するための
「利用者背景分析シート」
のようなものも、今後まとめていきたいと思っています。

現場で感覚的に対応していることを、言葉と型にしないと再現できないからです。


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リハビリデイ管理者
リハビリ特化型デイサービスの現役管理者。 現場運営・稼働率改善・スタッフ管理など、実際のデイサービス経営のリアルを発信しています。 これまで複数のデイサービス事業所で勤務し、稼働率が低迷していた事業所の改善に携わる。 担当した事業所では、稼働率を58.5%から79.8%まで改善。 ケアマネジャーとの関係づくり、紹介数を増やす営業方法、現場オペレーション改善など、 現場経験をもとにした実践的なノウハウをまとめています。 「現場で本当に使えるデイサービス経営」をテーマに、 管理者・生活相談員・デイサービス経営者向けに情報を発信しています。