看護師と介護職が噛み合わない時があります。

でも、それはいつも仲が悪いからではありません。

多くの場合、見ている景色が違うんです。

看護師は、急変しないかを見る。
介護職は、その人が今日ここに来てよかったと思えるかを見る。
生活相談員や管理者は、その両方を見ながら、利用継続や家族の納得まで考える。

同じ利用者さんを前にしていても、立場が違えば優先順位はズレます。

この記事では、デイサービスの現場で看護師と介護職の意見がズレた時に、管理者が使える会話術を3つに整理します。

  • まず、相手の見ているリスクを聞く
  • 次に、本人・家族が求めていることを共有する
  • 最後に、どこまで挑戦して、どこから止めるかを決める

つまり、管理者がやるべきことは、どちらが正しいかを決めることではありません。

それぞれの視点を翻訳して、安全と満足の間に「挑戦ライン」を作ることです。

今回は、そのズレを強く感じた実体験を書きます。

ただし、これは

  • 看護師が慎重すぎる
  • 介護職の方が利用者さん思い
  • どちらかが正しい

という単純な話ではありません。

安全と満足は、どちらか一方だけでは成立しません。

その間のラインをどこに置くか。
そこが、管理者の仕事なんだと思った出来事でした。

本記事は、現役デイサービス管理者としての実務経験をもとにした記録です。医療判断・法的判断・制度運用の最終判断を代替するものではありません。実際の対応は、主治医、看護師、ケアマネジャー、自治体、所属法人の基準をご確認ください。


デイサービスの多職種連携は「見ている景色の違い」から始まる

新規の利用者さんでした。

男性の方で、原因不明の胸の痛みがある。
病院で検査はしているけれど、狭心症などではなかった。
ただ、前かがみになると胸が苦しくなることがあるとのことでした。

体験利用のあと、本利用が決まり、契約に行った時のことです。

このご夫婦については、事前に担当ケアマネジャーから、

「クレーマー」
「いろんなデイサービスに行っては、ここがダメ、そこがダメと言って辞めていく」

と聞いていました。

担当ケアマネもかなり悩んでいたようで、うちを気に入ってくれたことを「奇跡だ」と言っていたくらいでした。

契約自体は最初、穏やかでした。
でも終盤、奥さんの空気が変わったんです。

「あんたんとこのリハビリデイサービスって、遊びばっかりしかしないのかい。リハビリはしないのかい」

体験時についても、

  • ストレッチを3回くらいした
  • そのあとは座らされっぱなしだった

という受け取りだったようでした。

そこで僕は、かなり熱く説明しました。

  • 初回だから身体状況を見ながら調整していたこと
  • 集団体操を入れていること
  • 一人では難しい運動も、仲間となら取り組みやすいこと
  • 遊びながらでも運動量は作れること

いわば、リハビリ特化型デイサービスとして何を大事にしているかを、そのまま伝えたような感じです。

結果的には最後、ご夫婦は笑顔になり、

「いい人に出会えてよかったね」

という声まで聞こえました。

ただ、その帰りの運転では思っていました。

この方は、ただ安全に過ごしてもらうだけではダメだ。
“ここに来てリハビリできた”と実感してもらえないと、たぶん続かない。


看護師は急変リスクを見る|介護職は生活の満足を見る

看護師は急変リスク、介護職は生活の張りや本人の表情、管理者は安全と満足の両立を見ていることを示した図解
多職種連携でズレが起きる時は、誰かが間違っているのではなく、見ている景色が違うことがあります。

本利用初日です。

看護師は慎重でした。

血圧は150台が平均とのこと。
胸の痛みもある。
原因不明とはいえ、心臓イベントがゼロとは言い切れない。

だから看護師としては、

  • あまり無理なことはさせられない
  • 座っている時間も長い方がいいかもしれない
  • 急変リスクを優先して見たい

という見方でした。

これは当然だと思います。

看護師は急変リスクを見る職種です。
何かあった時に一番困るのも、そこです。

一方で、僕は契約時の空気を知っていました。
この方が何を求めているかも、奥さんが何を見ているかも、ある程度分かっていました。

このまま慎重一辺倒で終わると、

「ここもリハビリしないデイサービスだった」

で終わる可能性が高いと感じていました。

だから、その日は少しだけ舵を切りました。


会話術1|まず「何が怖いか」を聞く

看護師と介護職の意見がズレた時、最初にやるべきことは説得ではありません。

まず、相手が何を怖がっているのかを聞くことです。

看護師に対して、いきなり

  • でも本人はやりたがっています
  • 家族もリハビリを期待しています
  • そんなに慎重にしなくても大丈夫では

と言ってしまうと、話は噛み合いにくくなります。

看護師が見ているのは、満足感ではなく急変リスクです。

だから最初に聞くなら、こういう言葉の方がいいと思います。

看護師に確認する言葉
「今日の状態で、一番怖いポイントはどこですか?」
「どの症状が出たら止めるべきですか?」
「血圧や表情で、どこを見ながら進めたらいいですか?」
「休憩を入れるなら、どのタイミングが安全ですか?」

この聞き方なら、看護師の専門性を否定しません。

むしろ、看護師の視点を借りながら、現場でできる範囲を探す形になります。

多職種連携の第一歩は、相手を説得することではなく、相手の見ているリスクを言葉にしてもらうことです。


管理者が作るべきは「低リスクで満足感が出る挑戦」

僕が選んだのは、平行棒での下肢の可動域訓練と歩行訓練でした。

もちろん、心臓に強い負荷がかかるようなことはしていません。
高強度の訓練でもありません。

休みを入れながら、15分ほど。
体調変化にはかなり注意しながら進めました。

つまり、やりたかったのは、無理をさせることではありません。

安全を確保した上で、“やった感”を作ることでした。

しかも、その方だけを切り離してやるのではなく、他の利用者さんも交えて一緒にやったんです。

目的は2つありました。

目的内容
本人・家族の実感「ここでちゃんとリハビリを受けている」と感じてもらう
仲間づくり新規利用者が孤立せず、周りと一緒に達成感を持てる形にする

新規利用の方が孤立せず、周りと一緒に達成感を持てる形にしたかった。

ただ運動するだけではなく、
「ここに来てよかった」と思える空気まで作りたかったんです。


足が上がった瞬間、家族の見ている景色も変わった

歩行訓練の時、その男性利用者さんは、普段より明らかに足が上がっていました。

僕は奥さんに言いました。

「お母さん、見て。お父さん、めっちゃ足上がってるよ」

すると奥さんは、目をうるうるさせながら喜んでいました。
本人も、まんざらではない顔でした。

さらに奥さんは、

「あなたのおかげでこうやって歩けるんですよ」

と言ってくれました。

しかも、その後は他の利用者さんから拍手が起きたんです。

この瞬間、場の空気が変わりました。

その人だけの訓練ではなく、周りも一緒に喜ぶ空気ができた。

看護師が見ていた景色とは別の景色が、そこには確かにありました。


看護師が苦い顔をした理由|多職種連携は正しさの勝負ではない

営業終了後、看護師に聞くと、返ってきたのはこういう反応でした。

「まあ、いいんですけどね。ただ、ちょっと心臓が怖いですよね」

まだ渋い顔でした。

ここが大事なところです。

利用者さんは喜んだ。
家族も喜んだ。
場の一体感もできた。
他の利用者さんから拍手も起きた。

でも、看護師の見方は簡単には変わらない。

これは、看護師が空気を読めないからでも、喜びを共有できないからでもないと思います。

看護師は、やっぱり急変リスクを見る。
もしここで何か起きたら、という最悪を想定する。

その職種としての責任があるからです。

だからこの場面は、どちらが正しかったかの勝負ではありません。

僕も無謀なことをしたわけではない。
看護師も過剰にブレーキをかけたかったわけではない。

ただ、見ている景色が違った

そこを、管理者がどうつなぐか。
それが本体です。


会話術2|本人・家族が求めていることを共有する

看護師のリスク視点を確認したら、次は本人・家族の期待を共有します。

ここで大事なのは、看護師に対して

  • 家族が言っているからやってください
  • 本人が希望しているから通してください
  • 満足度も大事でしょう

と押し切らないことです。

それでは、看護師から見ると「安全より満足を優先している」と受け取られかねません。

伝えるなら、こういう言い方の方がよいと思います。

本人・家族の期待を共有する言葉
「ご家族は“リハビリを受けた実感”をかなり重視されています」
「ただ座って終わると、継続が難しくなる可能性があります」
「強い負荷ではなく、低リスクで達成感が出る形を考えたいです」
「安全確認をしながら、どこまでなら可能か一緒に決めたいです」

この伝え方なら、満足感だけを押しているわけではありません。

安全を前提にしたうえで、本人・家族の期待も共有できます。

多職種連携では、相手の専門性を尊重しながら、本人・家族の背景を翻訳することが必要です。


会話術3|「どこまでやるか」ではなく「どこで止めるか」を先に決める

多職種連携で本当に必要なのは、仲良くすることだけではありません。

どこまでなら挑戦するか。 どこからは止めるか。 そのラインを共有することです。

安全だけに振り切れば、座ってもらう時間が長くなり、

「何しに来ているのか分からない」

という不満につながります。

逆に満足だけを取りにいけば、無理な負荷になり、最悪の事故につながることもある。

だから必要なのは、安全をベースにした挑戦です。

この時に使える会話は、こういうものです。

挑戦ラインを共有する言葉
「今日は高強度ではなく、平行棒内で低負荷にします」
「休憩を入れながら、表情と息切れを見ます」
「胸部症状や強い疲労感があれば、その時点で中止します」
「終わった後に、本人の反応と体調を一緒に確認しましょう」

ポイントは、先に止める条件を共有しておくことです。

「やらせてください」ではなく、
「止める条件を決めたうえで、低リスクでやってみたい」と伝える。

この違いは大きいです。

看護師にとっても、止めるラインが見えていれば、ただ不安なまま見守るより判断しやすくなります。


看護師にまだ言葉をかけていない理由|正論はタイミングを選ぶ

ここは正直に書きます。

実はこの件に関して、僕は看護師にまだ何も言っていません。

右腕のスタッフには、

「一緒にリハビリをして、低強度でも一緒に喜ぶことが大事だよ」

とは伝えました。

でも、看護師にはまだ話していない。

理由は単純で、今はタイミングを見ているからです。

看護師のメンタルが少し不安定で、ここで正論をぶつけても、うまくつながらないと思っている。

これは綺麗な話ではありません。
でも、現場ってそういうものだと思います。

多職種連携は、正しいことを正しい順番で言えば終わる話ではありません。
相手の状態、空気、タイミングも見ないといけない。

だから今の僕は、

まだ伝えていないことも含めて、連携の途中にいる

という感覚です。


看護師と介護職の視点をつなぐ会話の順番

看護師と介護職の視点をつなぐために、リスク確認、止める条件、家族の期待、低リスク提案、振り返りの順番で話す流れを示した図解
多職種連携では、いきなり説得せず、リスク確認から始めて挑戦ラインを共有することが大切です。

今回の件から、僕が整理した会話の順番はこれです。

順番管理者がやること使う言葉の例
1リスクを聞く「一番怖いポイントはどこですか?」
2止める条件を確認する「どの症状が出たら止めますか?」
3本人・家族の期待を共有する「ご家族はリハビリの実感を重視しています」
4低リスクの方法を提案する「平行棒内で低負荷にします」
5実施後に振り返る「体調と反応を一緒に確認しましょう」

この順番なら、看護師の専門性を無視しません。

介護職や管理者の思いだけで押し切る形にもなりません。

安全確認 → 期待共有 → 挑戦ライン設定 → 振り返り

この流れを作ることで、多職種連携は感情論ではなく、判断の共有に変わります。


ただ座らせるだけではダメ|でも無理をさせてもいけない

今回の件で改めて思いました。

看護師と介護職は、対立しているわけではない。
見ている景色が違うんです。

看護師は、何かあった時の最悪を先に見る。
介護職や生活相談員は、その人がここでどんな時間を過ごせるかを見る。

このズレは、ある意味ぶつかって当然です。

でも、だからといって、

  • 看護師は慎重すぎる
  • 介護職は攻めすぎる
  • どちらかが分かっていない

で終わらせると、何も前に進みません。

必要なのは、リスクは低く、満足は高く取るにはどうするかを毎回考えることです。

今回なら、

  • 高強度ではない
  • 休みを入れる
  • 体調変化を見ながらやる
  • 平行棒で安全性を確保する
  • 周囲の利用者さんも巻き込み、一体感を作る

このラインなら、挑戦の価値はあると僕は判断しました。

ただし、それは毎回同じではありません。
利用者さんによって大きく変わる。
だから毎回、慎重であることは大事です。

でも、慎重と停止は違う。

安全のためにただ座らせているだけでは、ダメなんです。

似ているようで、ここはかなり違います。


まとめ|管理者の仕事は、正しさの勝敗を決めることではなく翻訳すること

看護師と介護職が噛み合わない時、そこにはたいてい、職種ごとの正しさがあります。

看護師は急変を怖がる。
介護職は生活の張りや満足を見たい。
相談員や管理者は、その両方を見ながら、利用継続や家族の納得まで考える。

だからこそ、見ている景色はズレます。

でも、そのズレを、

  • 分かってくれない
  • 慎重すぎる
  • 攻めすぎる

で終わらせたら、連携は育ちません。

管理者の仕事は、正しさの勝敗を決めることではない。

それぞれの景色を翻訳して、どこまでなら挑戦できるかのラインを作ることです。

看護師と介護職は対立しているのではなく、見ている景色が違う。

だからこそ、満足を高く得てもらうために、安全をベースにした挑戦は必要になる。
そのためには、リハビリの内容だけでは足りません。

言葉。
その場の空気。
周りと一緒に喜べる流れ。
終わった後の振り返り。

そこまで含めて、多職種連携なんだと思います。


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  • 第89話|対応基準の共有|管理者だけが「鬼」にならないための仕組み
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リハビリデイ管理者
リハビリ特化型デイサービスの現役管理者。 現場運営・稼働率改善・スタッフ管理など、実際のデイサービス経営のリアルを発信しています。 これまで複数のデイサービス事業所で勤務し、稼働率が低迷していた事業所の改善に携わる。 担当した事業所では、稼働率を58.5%から79.8%まで改善。 ケアマネジャーとの関係づくり、紹介数を増やす営業方法、現場オペレーション改善など、 現場経験をもとにした実践的なノウハウをまとめています。 「現場で本当に使えるデイサービス経営」をテーマに、 管理者・生活相談員・デイサービス経営者向けに情報を発信しています。