第35話|リハビリ特化型デイの理想と現実 「もっと良くしたい」と「現場が回る」の間で決めていること

リハビリ特化型デイサービスをやっていると、理想と現実の差に何度もぶつかります。
本当はもっと良いリハビリをしたい。
もっと一人ひとりに時間をかけたい。
もっと細かく見たい。
でも、現場はそれだけでは回りません。
- 利用時間には限りがある
- 他の利用者さんもいる
- 介護職員の負担もある
- 個別機能訓練の時間に差が出れば、不満も出る
今回は、僕が「リハビリ特化型デイの理想と現実」をかなりはっきり突きつけられた出来事を書きます。
きっかけは、ある機能訓練士の一言でした。
「本当はもっといいリハビリをしたいんですよ」
この言葉自体は、間違っていません。
でも、現場全体を見た時、それだけでは済まない現実がありました。
1人に40分以上かけるリハビリが始まった
当時、新しく網膜変性症のある利用者さんが来られました。
両目がほとんど見えていない状態の方です。
その方に対して、当時の機能訓練士はかなり熱心に関わっていました。
性格も良い人で、目の前の利用者さんを本気で良くしたいという気持ちが強かった。
だから、その方に対する個別機能訓練はどんどん長くなっていきました。
気づけば、1人に40分以上かけていたんです。
うちは1単位3時間の半日型デイです。
その3時間の中には、
- バイタル測定
- 準備体操
- 口腔体操
- 集団体操
なども入ります。
そうすると、実際に機能訓練士が個別機能訓練に使える時間は、だいたい2時間ほどです。
その2時間の中で、最大10名の利用者さんに個別機能訓練をする。
そこに1人40分以上かけていたら、当然しわ寄せが出ます。
「もっと良いリハビリ」は、他の利用者さんの不満になった
問題はすぐに表面化しました。
まず利用者さんから、
「新しい人が入ってから個別機能訓練の時間が減った」
という不満が出てきました。
これは当然です。
同じ2時間を分ける中で、1人に長くかければ、誰かの時間は減ります。
さらに、介護職員からも不満が出ました。
- 機能訓練士が1人につきっきりになる
- 他の利用者さんの介助が大変になる
- 現場が回りにくい
- もう1人、介護員を入れてほしい
つまり、1人に対して理想を追った結果、
- 他の利用者さんの不満
- 介護職員の負担増
- 現場全体のバランス崩れ
が起きていたわけです。
リハビリ特化型デイとしては、「熱心に見ている」のは一見いいことです。
でも現場全体で見ると、それだけでは済まなかった。
「本当はもっといいリハビリをしたいんですよ」と言われた
この状況を見て、僕は機能訓練士に話しました。
その40分かけている個別機能訓練を、もう少し減らしてほしい。
その分、他の利用者さんへ個別機能訓練する時間を増やしてほしい。
その時に返ってきた言葉が、
「本当はもっといいリハビリをしたいんですよ」
でした。
この言葉、気持ちは分かります。
利用者さんを良くしたい。
もっと丁寧に見たい。
その思い自体は、リハビリ職として自然だと思います。
でも、僕はその時、かなりはっきり思いました。
それは分かる。でも、デイは1人のためだけの場所じゃない。
現場全体が回って、初めて支援は成立します。
1人に理想を注ぎ込みすぎて、他の9人にしわ寄せが行くなら、それはもう「いいリハビリ」ではない。
ここが、リハビリ特化型デイの理想と現実のぶつかるところです。
問題は、熱意ではなく「感覚で仕事をしていたこと」だった
この件で一番まずかったのは、熱意そのものではありませんでした。
問題だったのは、機能訓練士がリハビリを感覚でやっていたことです。
- 時間を見ていない
- 全体の流れを見ていない
- 1人にどれくらい時間をかけているかも、正確に意識していない
実際に、機能訓練士本人から
「時間とか見てないんですよ、自分」
と言われました。
正直、かなり危ないと思いました。
だから僕は、
「それならタイマーをつけてやってみたらどうかな」
と提案しました。
でも返ってきたのは、
「そういう機械的なことはしたくない」
でした。
正直、意味が分かりませんでした。
なぜなら、現場を回すために時間を見ることは、機械的だから悪いのではなく、
他の利用者さんの時間も守るために必要なこと
だからです。
感覚だけで仕事をすると、熱心さがそのまま不公平になります。
そして不公平は、必ず現場の不満になります。
僕が守りたかったのは「全体の公平さ」だった
この件で、僕が一番見ていたのは全体です。
- あまり個別機能訓練を受けられていない人が出ないようにすること
- なるべく、みんなが同じような時間で受けられるようにすること
リハビリ特化型デイと名乗る以上、特定の人だけが厚く見てもらえる構造はダメだと思っています。
だから今は、同じ内容の個別機能訓練が必要な利用者さんなら、一緒に受けてもらう形も取っています。
- 1対2
- 1対3
で実施することもあります。
もちろん、全員をそうしているわけではありません。
マンツーマンが必要な人には、マンツーマンで対応します。
でも、全員をマンツーマンで見るのが理想だとしても、現場はそれでは回らない。
だったら、グループでできる部分はグループにして、その分リハビリできる総時間を増やす。
これが今のやり方です。
「良いリハビリ」は、1人に長くやることではない
この件を通して、僕の中でかなり考え方が変わりました。
以前は、マンツーマンの個別機能訓練こそが理想に近いと思っていたところがあります。
でも今は、そう単純には考えていません。
1人に長く時間を使うことが、必ずしも良いリハビリではない。
現場全体で見て、
- 誰がどれくらい見てもらえているか
- 他の利用者さんに不満が出ていないか
- 介護職員の負担が崩れていないか
- 再現性のある運営になっているか
そこまで含めて考えないと、リハビリ特化型デイとしては不十分だと思うようになりました。
つまり、良いリハビリは「熱意の量」ではなく、
全体が持続できる形で質を保てているか
で見ないといけない。
1人を良くしたい気持ちが強すぎて、残り9人の満足度と現場の安定を削るなら、それはもう「良いリハビリ」ではないと今は思っています。
ここはかなり大きな変化でした。
今の僕は「理想は追う。でも感覚ではやらせない」
今の僕は、理想を捨てたわけではありません。
本当はもっと良いリハビリをしたい。
これは今でも同じです。
でも、それを感覚でやらせない。
時間を見ないまま熱意で押し切らせない。
そこはかなり意識しています。
今は、
- 時間を見る
- 全体を見る
- 偏りを作らない
- グループでできるものはグループにする
- 1対1が必要な人だけ個別で厚く見る
この形で回しています。
理想は追う。でも現場が壊れるやり方では追わない。
ここが、今の僕の線引きです。
まとめ|リハビリ特化型デイは「熱意」だけでは回らない
今、読者に一番伝えたい結論はこれです。
リハビリ特化型デイの理想は、1人ひとりを丁寧に見ることです。
でも現実には、時間も人員も限られています。
その中で1人に理想を注ぎ込みすぎると、
- 他の利用者さんの不満
- 現場の負担増
- 不公平感
- 再現性のない属人的運営
につながります。
以前は、マンツーマンで長く見ることが「良いリハビリ」に近いと思っていた。
でも今は、
全体が回る中で、必要な人に必要な濃さを届けることが、デイでの良いリハビリだ
と考えています。
そしてもう一つ。
リハビリを感覚でやらせない。
時間も、偏りも、全体の流れも見る。
それを仕組みに落とす。
リハビリ特化型デイは、理想だけでは続きません。
「もっと良くしたい」という思いを、現場が回る形に変換できて、初めて本物になる。
今はそう思っています。
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