第31話|家族が不信感を持つ瞬間 デイサービス管理者が「報告の差」で見た信頼と責任の重圧

デイサービスの現場で家族が不信感を持つのは、
事故が起きた時だけではありません。
むしろ本当に怖いのは、
「どこがちゃんと見てくれていて、どこが見えていないのか」
が家族に見えた瞬間です。
報告の量。
異変への反応。
動く速さ。
その差がはっきりすると、家族の中で信頼は一気に傾きます。
そして厄介なのは、その信頼が増えた先で、今度は
「じゃあ、もっと見てください」
と責任まで集まってくることです。
今回は、心不全で退院した施設入居者さんをめぐって、家族の信頼が一つの事業所に集中し、逆にデイサービス側の恐怖と責任が一気に重くなった実例を書きます。
入院後に再開された、心不全のある利用者さんだった
利用者さんは、90代以上の女性。
施設入居中で、要介護4の方でした。
少し前まで、急性心不全で入院していました。
退院後に、またデイ利用が再開された流れです。
心不全の方で怖いのは、体重の増加です。
一定の基準体重を超えてくると、水分貯留や心不全悪化の可能性が出てきます。
この方は主治医から、
「35kgを基準に見てください」
と言われていました。
だから僕らは、再開後しばらくの間、毎回の利用時に体重を測るようにしていました。
すると、体重が明らかに増えていったんです。
- 36kg
- 37kg
- 38kg
- 40kg
見た目にも分かるくらい増えていました。
だから僕らは、そのたびにケアマネへ報告していました。
- 体重が増えてきています
- もしかしたら水が溜まっているかもしれません
- 施設や訪問看護は何か言っていますか?
そういう報告を、かなり細かく入れていました。
ケアマネは、その内容を逐次家族へ伝えていました。
家族の不信感は、事故ではなく「報告の差」から始まった
僕らとしては、必要なことを必要な相手に報告しているだけでした。
でも後から分かったのは、家族の中で別のことが起きていたということです。
家族から見ると、デイサービスはこんなに情報をくれる。
体重変化も伝えてくれる。
異変も教えてくれる。
でも、訪問看護からはほとんど情報が来ない。
施設からも、状態変化について細かい説明がない。
この差が、家族の中でだんだん大きくなっていったんです。
最初は違和感だったと思います。
- あれ?
- デイはこんなに言ってくれるのに
- 訪問看護は何も言わないの?
それが、繰り返すうちに不信感になっていった。
つまり家族が不信感を持った瞬間は、何か大きな事故が起きた時ではありませんでした。
報告の温度差が見えた時でした。
僕らは、まさか報告していないとは思っていなかった
ここはかなりリアルなところです。
僕らからしたら、訪問看護が何も報告していないとは思わなかったんです。
特別訪問看護指示書も出ていた。
訪問看護も継続で入っている。
施設も日常的に関わっている。
だから当然、どこかで何かしら情報共有されていると思っていました。
でも、実際はそうではなかったらしい。
訪問看護から家族やケアマネに上がっていたのは、
「大きな変わりないです」
くらいの内容だったようです。
一方で、こちらは体重増加を毎回伝えていた。
しかも、その先で実際に「心臓に水が溜まっている」ということも分かった。
そうなると、家族の中では
「ちゃんと見てくれているのはどこなのか」
がはっきりしてしまいます。
そして一度そう見えてしまうと、信頼は一気に偏ります。
ケアマネも怒っていた。「あそこの訪問看護さん、何も報告してくれない」
この時の空気を一番よく表していたのは、ケアマネの言葉でした。
ケアマネはかなり怒っていました。
「あそこの訪問看護さん、何も報告してくれない」
実際、こちらが
「体重これくらいあるんです」
と伝えると、訪問看護側は
「じゃあ次ちょっと調べておきますね」
みたいな反応だったらしいです。
ケアマネからすると、それでは困る。
なぜなら、このケースは
「いつ急変してもおかしくない」
という前提があるからです。
ケアマネは僕らにこう言っていました。
- 怖いよね
- 要は爆弾を抱えてるようなものだからね
- 訪問看護から報告がないと、どうやっていったらいいか分からない
この言葉は重かったです。
つまり、家族だけでなくケアマネの中でも、
「どこが見えていて、どこが見えていないのか」
がはっきり見えてしまっていた。
そして家族は、訪問看護をやめてデイ利用を増やしたいと言ってきた
ある時、家族から話が来ました。
訪問看護をやめて、デイサービスの利用日数を増やしたい。
理由ははっきりしていました。
- デイサービスの看護師さんがよく母を見てくれる
- 管理者さんもよく報告してくれる
- 安心する
家族としては、もう頼れるところがそこしかなかったんだと思います。
ただ、こちらとしては正直かなり複雑でした。
ありがたい評価です。
でも同時に、
いや、さすがにデイサービスの仕事じゃないだろ。
うちはクリニックじゃないし、どうしろって言うんだよ。
責任重すぎるし、いつ急変してもおかしくない。
看護師、絶対メンタル崩れるよ。
そんなことを、僕はケアマネに何度も言いました。
本当に、
「嘘だろう」
を10回くらい言っています。
ケアマネも
「本当そうだよね、ごめんね」
と言いながら、このサービスを組んだ形でした。
信頼されて終わりじゃない。信頼されたあとが怖い
ここが、この31話で一番書きたいところです。
信頼されるのは良いことです。
でも、信頼されて終わりではありません。
信頼されたあとに、その期待をどこまで背負うのか。
という問題が出てきます。
今回もそうでした。
家族から見れば、
「一番よく見てくれるのはデイ」
になった。
でも、デイサービスは病院でもクリニックでもありません。
できることには限界があります。
急変した時に、その場でできる医療行為はほとんどない。
せいぜい救急搬送の判断くらいです。
だから、信頼が増えるほど、こちらは逆に怖くなりました。
一番強く反応したのは、うちの看護師だった
この時、一番強く反応したのはうちの看護師でした。
泣きそうな顔で、
- どうしてここが増えるんですか
- どうして訪問看護がなくなるんですか
- そんなことありますか
- ここに来られたって、クリニックじゃないから何もできないですよ
- 搬送することしかできないですよ。何考えてるんですか
と、かなり強い口調で言われました。
でも、看護師が怒るのは当然でした。
僕も同じように怖かったからです。
こういう時、僕はまず共感します。
しかも、ただ
「そうだよね」
と静かに受け止めるだけじゃなく、むしろ僕の方が少し強く怒ることがあります。
- いや、本当にそうだよ
- どうしてこういう状況になったんだ
- 訪問看護は何をしていたんだ
と、看護師より少し大きい熱量で同じ目線に立つ。
そうすると、相手の感情が少しずつ落ち着いてきます。
その上で、
- じゃあ主治医に確認書を出して、基準を書いてもらおう
- そこまでやれば、少し納得できるかい
- 無理させてごめんよ
と提案しました。
だから今回は、主治医の基準を先に取りに行った
この時、僕はケアマネにお願いして、主治医に意見を求めることにしました。
デイサービスは、デイケアと違って、普段は医師からここまで細かい基準をもらうことはあまりありません。
でも今回は、そういうレベルの話ではなかった。
そこで作ったのが、
短時間通所リハビリ実施に関する医療安全確認書
です。
要するに、
- どういう状態の時に主治医へ確認していいか
- どの基準を超えたら連絡するか
- その前提でデイ利用していいか
を、医師に確認するための書類です。
もっと言えば、
「このラインを超えたら、すぐにあなたに電話しますよ。いいですか?」
という前提共有でもありました。
主治医は意外なくらいすんなり書いてくれたそうです。
ケアマネ経由で聞いた話では、
「あ、いいですよ。僕書きますよ」
という反応だったようです。
僕とケアマネは、断られるかもしれないと思っていました。
でも主治医としても、
「デイサービスに申し訳ないことをした」
という感覚があったようでした。
結局、この確認書を作ったことで、看護師の不安はかなり下がりました。
問題が消えたわけではありません。
でも少なくとも、
「何を目安に動くか分からない」
という恐怖は減った。
現場の不安を消すには、気合いではなく、最後は基準が必要なんだと改めて思いました。
今でも悩んでいる。報告は多ければいいのか
正直に言うと、この件は今でも悩んでいます。
以前の僕は、
報告をこまめにすることを一番大事にしていました。
変化があれば報告する。
必要ならすぐ動く。
それが正しいと思っていた。
今も基本はそうです。
でも今回みたいなことがあると、少し迷います。
こちらが手厚く報告すればするほど、
他の事業所との温度差が見えてしまう。
その結果、家族の信頼が偏り、別の事業所への不信感が強くなることもある。
もちろん本音では、
「いや、他の事業所がもっとこまめに報告して動けよ」
と思っています。
でも現実は、それぞれの事業所に事情がある。
だから単純に責めれば終わる話でもない。
今回の出来事で初めて、
手厚いサービスが、結果的に他事業所を悪者にしてしまうこともある
と知りました。
ここは、今も迷っているところです。
まとめ|家族が不信感を持つ瞬間は、「見えている量」の差が見えた時
今、読者に一番伝えたい結論はこれです。
家族が不信感を持つ瞬間は、事故が起きた時だけではありません。
誰がどれだけ見ていて、どれだけ報告してくれるのか、その差が見えた時に始まります。
今回のケースでは、
- デイは細かく報告した
- 訪問看護や施設は情報が少なかった
- その差が、家族とケアマネの違和感になった
- 違和感が不信感になった
- 最後は信頼がデイに集中した
という流れでした。
ただ、信頼が集まることは、手放しで喜べる話ではありません。
信頼は、そのまま責任の重さにも変わります。
だから今は、ただこまめに報告するだけではなく、
- 誰を通して伝えるか
- どこまで共有するか
- 他事業所との温度差がどう見えるか
- その結果、誰に責任が集中するか
そこまで考えるようになりました。
以前は、報告をこまめにすること自体が正義だと思っていた。
でも今は、報告の量だけでなく、連携全体のバランスまで見ながら動くようにしている。
それが、この件で学んだことです。
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