第33話|「デイに行きたくない」と言われた日 拒否の裏にある高齢者のプライドと管理者の対応

デイサービスをやっていると、利用者さんから突然こう言われることがあります。
「行きたくない」
「行ったってしょうがない」
こういう言葉を聞くと、最初は体調不良を疑います。
実際、しんどい時もあります。
でも現場で何度も見ていると、それだけではないことが分かります。
高齢者の「行きたくない」の裏には、
- 疲れ
- 痛み
- プライド
- 恥ずかしさ
- 昔の記憶
- 人との距離感
が隠れていることがあります。
今回は、ある利用者さんが突然デイを拒否し始めた時の話を書きます。
そしてそこで分かったのは、拒否の原因は今の出来事ではなく、もっと古い傷だったということです。
突然「行きたくない」と言い出した利用者さん
その方は80代の女性でした。
要介護2、杖で歩行される方です。
認知症はありません。
ただ、思い込みがかなり強いタイプでした。
脳梗塞の後遺症で左側に麻痺があり、言語障害もありました。
そして、知的障害のある娘さんと二人で暮らしていました。
この方は、昔住んでいた村でいじめを受けた経験がありました。
そのため、人との交流にはかなり臆病なところがありました。
ただ一方で、人に話を聞いてもらえることはすごく嬉しい。
慣れた人たちの中では、会話も運動も楽しんでいました。
だからこちらとしては、比較的安定して通えている方という認識でした。
でも、ある日から突然こう言い出したんです。
「私は行きたくない」
「行ったってしょうがない」
そして、そのまま休みが続きました。
最初に確認したのは体調。でも大きな変化はなかった
こういう時、まず職員に確認するのは体調や普段の様子です。
- しんどそうだったか
- 何か体の変化があったか
- 誰かとトラブルがあったか
- 落ち込みがあったか
- 前日までと違うところはないか
今回もそこを確認しました。
でも、大きな変化はありませんでした。
職員からは、
「そういえば少し他者との会話が減っていたかもしれない」
という話はありました。
ただ、その時点ではそこまで大きな異変とは見えなかった。
そういう時もあるだろうくらいの受け止め方だったようです。
ただ、この方は本当にコミュニケーションが大事な人でした。
話を聞いてもらえることが、かなり嬉しいタイプだった。
だから僕の中でも、
「体調だけじゃないかもしれない」
という感じはありました。
原因は、新しく入った利用者さんだった
この方のお宅に行って話を聞くと、最初は
「体調がしんどい」
ということでした。
でも、よくよく聞いていくと、別の話が出てきました。
少し前に新しく入ってきた女性の利用者さんが、
自分が昔住んでいた地域で、自分をいじめていた人だというんです。
しかも、知的障害のある娘さんもパニックになっていました。
「あの人、お母さんをいじめた人なんでしょう」
「また何か言われるんじゃないの」
という反応でした。
この方が昔住んでいた地域は、差別を受けやすい土地柄だったようです。
だから本人の中では、
- また差別されるかもしれない
- 昔いじめられたことを他の利用者さんに話されるかもしれない
- 自分の居場所がなくなるかもしれない
という恐怖につながっていたんだと思います。
つまり「行きたくない」の正体は、
体調不良ではなく、昔の傷が刺激されたことによる拒否でした。
本人の訴えを聞いた後に、まずやったこと
この時、僕はまず謝りました。
「そういうことがあったんだね」
「嫌な気持ちにさせてしまったね」
ここは、事実確認の前に必要だと思っています。
なぜなら、思い込みだったとしても、本人の怖さや嫌さは本物だからです。
そのあとデイに戻って、新規利用者さんのことや、その曜日の空気を改めて調べました。
もし本人の言っていることが本当なら、曜日調整も必要です。
逆に思い込みなら、それはそれで丁寧に説明しなければいけない。
調べた結果、新規利用者さんは他府県から来られた方で、その方が昔住んでいた地域とはまったく関係がありませんでした。
つまり、本人の思い込みでした。
さらに、他の利用者さんとの会話を見ても、その新規利用者さんが誰かを悪く言うような様子は全くなかった。
ここで僕がやったのは、
本人の主観(怖さ)は100%本物として受け止めた上で、客観的な事実を一つずつ切り分けること
でした。
「そんなことないですよ」で終わらせるのではなく、
- 怖さは本物として受け止める
- でも、事実は事実として丁寧に確認する
この順番を間違えると、たぶんこの方は戻ってこなかったと思います。
この件に魔法の言葉はなかった
正直に言うと、この件には魔法の誘い文句なんてありませんでした。
もしあるなら、僕が知りたいです。
今回は、本当に丁寧に説明していくしかありませんでした。
しかも相手は、思い込みが強い方です。
一回説明したら終わり、ではありません。
まずパニックになっている娘さんに説明する。
それから本人に、一つずつ説明する。
- 同じ地域の人ではないこと
- 昔の知り合いではないこと
- 他の利用者さんを悪く言っている事実もないこと
何度も確認されました。
そのたびに、何度も同じように伝えました。
この方は他の利用者さんとは長い付き合いで、仲の良い人もいました。
だから、いきなり曜日を変えて、そのつながりを切るのも違うと思いました。
しかも新規の利用者さんも、他の介護サービスの都合でその曜日しか利用できなかった。
そう考えると、この場面で必要だったのは、
配置換えより、まず誤解を解いて安心を取り戻すことでした。
そして最終的に、本人は
「じゃあ、また今度行ってみます」
と言ってくれて、次から再び来てくれるようになりました。
拒否の裏には「今」ではなく「昔」が入っていることがある
この件でかなりはっきり分かりました。
利用者さんの拒否は、今起きていることだけが原因じゃないことがある。
目の前の新規利用者さんが原因に見えても、本当はその奥に
- 昔の差別体験
- 昔のいじめ
- 過去に傷ついた記憶
- 自分の立場がまた危うくなる不安
そういうものが入っていることがあります。
しかも高齢になると、その記憶は今より強く出ることがある。
今の説明だけでは動かない理由が、そこにあります。
だから「そんなことないですよ」で終わらせると、逆にこじれます。
管理者として必要なのは、
今起きている言葉の裏に、何の記憶がつながっているのかを見ること
なんだと思います。
この件で変わったのは、新規利用者さんを見る視点だった
今回の件のあと、自分の中で一つ変わったことがあります。
それは、新規利用者さんが入ってきた時の見方です。
以前は、
「新しい利用者さんが来たら、みんな自然に馴染んでいくだろう」
くらいに思っていたところがありました。
でも今は違います。
新しい人が入ることで、その曜日の空気がどう変わるか。
既存の利用者さんがどう感じるか。
この人の登場で、誰かの昔の傷や不安が刺激されないか。
そういうところまで、意識するようになりました。
つまり、利用者さんが増えることは単純なプラスではない。
その人が入ることで、既存の空気がどう変わるかまで見ないといけない。
この件を経て、
新規受け入れは単なる増員ではなく、その曜日のコミュニティを再編することなんだ
と考えるようになりました。
これはかなり大きな視点の変化でした。
まとめ|「行きたくない」の裏には、高齢者のプライドと昔の傷があることがある
今、読者に一番伝えたい結論はこれです。
高齢者の「行きたくない」は、体調だけが原因とは限りません。
その裏に、プライドや昔の傷、差別された記憶、人間関係への恐怖が隠れていることがあります。
今回の件では、体調不良に見えた拒否の裏に、
昔のいじめ体験と差別への恐怖がありました。
だから必要だったのは、
- 無理に励ますことでも
- 勢いで連れてくることでもなく
本人の怖さを一度受け止め、事実を確認し、誤解を一つずつほどいていくことでした。
以前は、拒否が出たらまず体調や環境を見ていた。
でも今は、それに加えて
「この人の昔の傷やプライドが刺激されていないか」
まで考えるようにしています。
そしてもう一つ。
新規利用者さんが入る時は、その人自身だけでなく、
その人が既存利用者の心に何を起こすか
まで見るようになりました。
デイに行きたくない。
その一言の裏には、今の問題ではなく、昔の痛みが入っていることがある。
それを知っているだけで、管理者の対応はかなり変わると思っています。
最後に、こういう利用者背景の見立てや、拒否の裏にある理由を整理するための
「利用者背景分析シート」
のようなものも、今後まとめていきたいと思っています。
現場で感覚的に対応していることを、言葉と型にしないと再現できないからです。
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