第34話|利用者のわがままと支援の境界 寄り添うことが現場を壊す瞬間

デイサービスの現場では、ときどき迷います。
これは支援なのか。
それとも、ただわがままに付き合っているだけなのか。
高齢者支援では、寄り添うことが大事です。
寂しさ。
不安。
孤独。
甘え。
プライド。
そういうものが言動に出ることは珍しくありません。
だから、少しのわがままなら受け止めることもあります。
実際、それで落ち着く人もいます。
でも一方で、寄り添いすぎると現場が壊れるケースもあります。
今回は、僕が管理者になった当初にかなり悩んだ利用者さんの話を書きます。
そしてそこで学んだのは、支援には境界が必要だということでした。
毎回、迎えに行ってからキャンセルされる利用者さんだった
その方は80代の女性、要介護2。
デイサービスから片道40分の場所に住んでいました。
性格はかなりはっきりしていて、本人もよくこう言っていました。
「好きなものは好き。嫌いなものは嫌いって、はっきり言うのよ私」
僕が管理者になる前から通っていた利用者さんです。
当時働いていた男性の機能訓練士のことがかなり気に入っていて、その人にマッサージをしてもらえないと機嫌が悪くなる。
その曜日の中では、いわばリーダー的な存在でもありました。
ただ、この方には大きな問題がありました。
自宅へ迎えに行っても、
- 今日気分が悪い
- 今日しんどい
- 今日便秘だから
といった理由で、玄関先でキャンセルになることが何度もあったんです。
片道40分かけて迎えに行って、家の前で
「やっぱりやめる」
と言われる。
これはかなり重いです。
しかもケアマネからは、
「迎えに行った時にできるだけ説得してほしい」
と依頼されていました。
だから毎回、現場で説得していました。
でも時間はかかる。
しかも説得しても来ないことが何度もある。
これは管理者になった当初、現場でかなり問題になっていました。
「寄り添うべきだ」という考え方だけでは回らなかった
前の管理者は、こういうのも寄り添わないといけない、という考えだったようです。
気持ちは分かります。
高齢者の拒否には、体調や不安、寂しさが入っていることも多いからです。
でも、このケースはそれだけでは回りませんでした。
なぜなら、影響が大きすぎたからです。
まず、送迎が遅れます。
片道40分の自宅で玄関先キャンセルになれば、そのあとの送迎全体がずれます。
さらに、他の利用者さんへの影響もありました。
この方はその曜日のリーダー的存在だったので、空気に与える影響が強い。
「あの人がこうなら、自分もいいか」
という価値観を広げる危険もありました。
職員の不満もかなり出ていました。
- 迎えに行っても来てくれない
- 説得しても言い訳を言われるだけ
- ここまでやる意味があるのか
当然だと思います。
しかも、迎えに行く前に電話で
「今日はデイサービスだからね」
と伝えるようにしても、その時は
「行きます〜」
と明るく返事をする。
でも実際に迎えに行くとキャンセルになる。
これが続くと、現場はかなり消耗します。
最初は体調不良に見えた。でも中身は別だった
ケアマネから聞いた話では、この方はデイを休んだあと、普通に散歩や買い物に出ていたそうです。
つまり、本当に動けないほどの体調不良ではない。
そうなると、話は変わってきます。
もちろん高齢者なので、その日の気分やしんどさはあります。
でもこのケースでは、どうもそれだけではない。
さらによく聞いていくと、この方には別の思惑もあったようでした。
自分のお気に入りの機能訓練士がもっと中心になって働けるようにしたい。
そのために、今の管理体制や現場に揺さぶりをかけたい。
そんな意図も見えてきました。
ここまでくると、もう話は変わります。
寂しさや不安が背景にある拒否なら寄り添える。
でも、少し悪意を持って現場を操作しようとしているなら、それは支援の枠を超えます。
この時点で僕は、
「もう無条件には寄り添えない」
とはっきり思いました。
寄り添うべき「依存」と、断つべき「操作」は違う
この件で、自分の中ではっきりしたことがあります。
高齢者のわがままには、大きく分けて二種類あります。
一つは、寄り添うべき依存です
- 寂しさから何度も確認してくる
- 愛情が欲しくて引き止める
- 不安で甘える
- 誰かに必要とされている感覚を欲しがる
こういうものは、構造を少し調整すれば落ち着くことがあります。
声かけを変える。
関わり方を整える。
安心できる人との接点を増やす。
そういう対応で支援になります。
もう一つは、断つべき操作です
- 管理体制を揺さぶる
- 特定職員を私物化しようとする
- 他利用者へ示威行為のような影響を与える
- 同じ説明をしても改善せず、現場を試すように繰り返す
ここまで来ると、もう個別支援だけでは回りません。
それは構造の破壊行為に近い。
この区別ができるようになってから、僕はかなり楽になりました。
寄り添うべき相手に寄り添い、境界を引くべき相手には引く。
それを曖昧にしないことが、現場を守ることにつながるんだと思います。
このまま続けても、誰のためにもならなかった
僕が最終的に判断したのは、このままの形で続けても誰のためにもならないということでした。
本人のためにもならない。
他の利用者さんのためにもならない。
職員のためにもならない。
デイ全体の運営のためにもならない。
だから、ケアマネにも本人にもはっきり相談しました。
- 体調不良ではなく、利用者さん都合の休みが続くのは困ること
- このままではサービス継続は難しいこと
そして、重要事項説明書の内容も見直しました。
利用者様のご都合によるキャンセルが1か月以上続いた場合は、サービスの利用を中止する場合があります。
この一文を入れました。
これは冷たいように見えるかもしれません。
でも、現場を守るためには必要でした。
寄り添うことが無制限になると、ルールは壊れます。
ルールが壊れると、結局一番弱い利用者さんからしわ寄せを受けます。
だから、境界は必要です。
言葉で説得するのではなく、重説という防波堤を作った
この時に大きかったのは、口頭で説得し続ける形から抜けられたことです。
それまでは、迎えに行って、玄関先で話して、なだめて、説得して、また断られる。
完全に属人的でした。
でも重要事項説明書に一文を入れたことで、
「僕が困っているからやめてください」
ではなく、
「契約上、このラインを超えたら継続は難しいです」
という構造に変えられた。
これはかなり大きいです。
感情で押し返すのではなく、契約に逃がす。
個人の我慢ではなく、ルールで支える。
この切り替えができたことで、現場の消耗はかなり減りました。
今振り返ると、この重説の一文はただの注意書きではありません。
現場を守るための防波堤でした。
結局、その利用者さんはどうなったか
最終的には、そのお気に入りの機能訓練士が辞めるのとほぼ同時に、その方も利用をやめていきました。
正直、そこで僕の中でもかなりはっきりしました。
この人にとっての通所は、運動や生活維持だけではなかった。
特定の人との関係性にかなり依存していた。
もちろん、それ自体が全部悪いとは言いません。
高齢者支援では、人との相性や安心感はかなり大きいからです。
でも、その依存が現場全体を揺らし始めたら、話は別です。
そこまで行くと、個別支援ではなく、構造の問題になります。
今でも、ある程度のわがままには寄り添っている
ここは誤解してほしくないです。
僕は今でも、ある程度のわがままには寄り添っています。
なぜなら、そのわがままの裏に
- 愛情が欲しい
- 寂しい
- 自分の存在を確認したい
- 誰かに必要とされたい
という背景があることが多いからです。
特に独居の方なんかは、そこがかなり強いです。
だから、わがままを言われた時はまず寄り添います。
「あなたが来てくれると、他の人も喜ぶよ」
「あなたのこと、待ってるよ」
そういう言葉をかけることもあります。
実際、それで落ち着く人もいます。
でも、悪意があると分かった時。
あるいは、他利用者や現場全体を壊し始めた時。
同じ説明をしても改善せず、ルールを崩し続ける時。
その時は、もう個別対応だけではいきません。
ケアマネや他サービスも含めて相談し、境界を引きます。
この件で変わったのは、「特定利用者」の見方だった
今回の件を通して、自分の見方はかなり変わりました。
以前は、寄り添えるところまでは寄り添うのが支援だと思っていた。
でも今は違います。
本人の尊厳は守る。
寂しさや不安の背景も見る。
でも、その寄り添いが
- 他利用者に悪影響を与える
- 職員の負担を壊す
- ルールを崩す
- 再現性のない特別対応になる
なら、そこには境界が必要だと考えるようになりました。
要するに、
支援とは、何でも受け入れることではない。
現場全体を守りながら、どこまで個別に寄り添えるかを考えること。
だと今は思っています。
まとめ|寄り添いが支援でなくなる瞬間がある
今、読者に一番伝えたい結論はこれです。
利用者のわがままには、背景があります。
寂しさ、不安、依存、愛情欲求。
だから最初から切るべきではありません。
でも、寄り添いがそのまま支援になるとは限りません。
- 現場を壊す
- 他利用者に悪影響を与える
- ルールを崩す
- 悪意や操作性が見える
- 改善の見込みがなく、同じことを繰り返す
ここまで来たら、それはもう
「寄り添い続けることが正義」
ではなくなります。
以前は、寄り添えるだけ寄り添うのが支援だと思っていた。
でも今は、
本人の尊厳を守りながら、現場全体も守れるところまでが支援
だと考えています。
それを超えたら、境界を引く。
ケアマネや他サービスも入れて調整する。
その線引きが、管理者には必要なんだと思っています。
次に読むべき記事
第33話:「デイに行きたくない」と言われた日|拒否の裏にある高齢者のプライドと管理者の対応
→ 拒否の裏にある感情や背景を、もう一段深く見たい方へ。
第29話:家族説明が一番怖い理由|デイサービス管理者が「腫れ物対応」をやめた日
→ 本人や家族の訴えに対して、管理者がどう説明責任を取るかを続けて読みたい方へ。
第31話:家族が不信感を持つ瞬間|「報告の差」が生む信頼と責任の重圧
→ 対応の差が信頼と責任にどう跳ね返るかを、家族対応の側から見たい方へ。
リハビリ特化型デイサービス管理者の仕事ロードマップ
→ 家族対応・拒否対応・現場改善まで、管理者の仕事全体をまとめて追いたい方はこちら。




