第49話|回っているようで一番危ない|属人化が施設を壊す前兆

属人化は、事故が起きた時に発見されるわけではありません。
一番危ないのは、何も起きていない平時です。
現場が回っている。
クレームも出ていない。
家族対応も何とか済んでいる。
だから大丈夫に見える。
でも実際には、
たった1人の頭の中と責任感の上に、施設全体が静かに乗っているだけ
かもしれません。
僕はそれを、有給の日に思い知りました。
有給の日の電話で、やっと気づいた
その日は、数ヶ月ぶりに取れた有給でした。
妻と少し高めの食事に出ていました。
せっかくの外食でした。
美味しいものを食べればそれでいいわけじゃない。
雰囲気も大事です。
時間も大事です。
でも、その途中で職場から電話が来ました。
内容は、ある施設の方が請求金額のことで相談したいから、今から来てほしいというものでした。
結局、その人にはいったん帰ってもらって、僕はその日のうちに相談を受けに行きました。
あの日、午後からの予定は全部なくなりました。
崩れた時間は、ざっくり6時間です。
しかも、これは頻繁に有給を取っていて起きた話ではありません。
数ヶ月ぶりの有給で、電話発生率100%。
笑えない数字でした。

一番きつかったのは、仕事じゃなかった
しんどかったのは、呼び出されたことだけじゃありません。
電話を切った後の、あの気まずい空気です。
目の前には妻がいる。
せっかく時間を作ってくれていた。
せっかくの食事だった。
でも僕は、ただ「ごめんね」「ごめんね」しか言えませんでした。
妻の怒った顔も覚えています。
怒っているというより、もう呆れていて、せっかく作った時間が一気に冷えていく感じでした。
あれは、仕事の問題というより、属人化が家庭にまで侵食してきた瞬間だったと思います。
施設の中で仕事が偏る。
それだけなら、まだ管理者の苦労話で済ませられます。
でも実際には、そういう偏りは休日を壊し、家族との時間を壊し、私生活まで巻き込んできます。
ここまで来ると、もう「忙しい管理者あるある」ではありません。
施設の構造が壊れ始めているサインです。
ブラックボックス化していたのは、書類そのものじゃなかった
一番ブラックボックス化していたのは、単純な書類作成ではありませんでした。
表面だけ見ると、計画書や記録や加算まわりです。
でも本体はそこじゃない。
実際にブラックボックス化していたのは、
- 利用者ごとの対応判断
- 家族への説明の整え方
- ケアマネへの返し方
- 看護、機能訓練、介護の情報のつなぎ方
- LIFE、計画書、モニタリング、加算の整合
- トラブル時にどこを先に確認するか
こういう見えない実務でした。
つまり、書類が1人に集中していたんじゃない。
利用者対応と制度判断と連絡調整をつなぐ“裏の配線”が、管理者1人に集中していたんです。
数字で言うなら、当時は体感で10個以上、下手をしたら20個以上の業務が、ほぼ僕に寄っていました。
怖かったのは、「その人しか分からない」が普通になっていたこと
属人化が進んでいる現場では、こんな言葉が普通に出ます。
「これ、どうしたらいいんですか?」
「前はどうしてました?」
「これ誰が分かるんでしたっけ?」
「聞いてないです」
「これ、触っていいやつですか?」
「結局、本人待ちですか?」
この言葉って、怠けている人の言葉じゃないんです。
むしろ逆です。
真面目な人ほど止まる。
なぜなら、下手に触ると
- 利用者対応がズレる
- 家族への説明がズレる
- ケアマネへの連絡がズレる
- 現場と書類の整合が崩れる
と分かっているからです。
だから、慎重な人ほど動けなくなる。
この状態は、現場が丁寧なわけでも、慎重なわけでもありません。
「記録やルールではなく、人で回している施設」になっている証拠です。

一番怖かったのは、回っているように見えて中身が空洞だったこと
事故が起きたわけではありませんでした。
クレームが出たわけでもありませんでした。
数字が急落したわけでもありませんでした。
でも、僕はあの時はっきり思いました。
これ、自分が倒れたら終わるな。
何度も思いました。
もうやめてやろうかな、とまで思いました。
そのくらい、自分の中では限界に近かったです。
本当に怖かったのは、混乱ではありません。
平時なのに危ないこと。
何も起きていない。
でも実態は、
- その人がいれば回る
- その人が確認すれば整う
- その人が最後に触れば成立する
というだけだった。
つまり、施設として回っていたんじゃない。
1人の処理能力と責任感で、たまたま持っていただけです。
ブラックボックス化が怖いのは、崩れた時じゃありません。
崩れていない時に、問題として見えないことです。
属人化は、サボりの問題じゃない
ここは大事です。
属人化って、誰かが怠けたから起きるわけじゃありません。
むしろ、真面目な現場ほど起きやすい。
理由は単純です。
- 優秀な人がいると、その人がやった方が早い
- 忙しいと、教える時間より自分でやる方が速い
- 周りも「聞けば済む」で回してしまう
- 平時は壊れていないから問題に見えない
- 仕組み化は目の前の売上や業務に直結しにくい
つまり、みんな真面目にその日を回した結果、静かに進行するんです。
だから属人化は、人間性の問題じゃない。
構造の問題です。
最初の一手は、完璧なマニュアル化じゃなかった
ここで大事なのは、いきなり完璧を目指さないことでした。
最初の一手は、立派なマニュアル作成じゃありません。
僕が最初にやったのは、
- 書式を固定する
- 起きたことを記録に残す
- 口頭だけで終わらせない
- 右腕に、その日の出来事をChatGPTへ残してもらう
- 確認の順番を少しずつ外に出す
このあたりでした。
要は、頭の中にあるものを外に出し始めたんです。
属人化した仕事って、いきなり全部引き継げません。
だから最初に必要なのは、完璧な仕組み化ではなく、
- どこを見るのか
- 何を確認するのか
- 何が未処理なのか
を、他人にも見える状態にすることでした。
たとえば、誰にどこまで話したか、何が返答待ちか、次に何を確認するかが見えるだけでも、途中から触れる人は増えます。
言い換えると、
見えない仕事を、見える途中状態に変えること。
これが最初の一手でした。
変化は、ちゃんと数字に出た
ここは大きかったです。
記録する前は、右腕から僕への質問が1日10回くらいありました。
でも、書式固定と記録の蓄積を始めてからは、1日2〜3回程度まで減りました。
これはかなり大きいです。
しかも、有給の日に連絡が来ることは、今ではほぼなくなりました。
もちろん、完全にゼロではありません。
でも、少なくとも以前のように、休みの日に呼び戻される状態ではなくなった。
その代わり、必要なことはその日の様子としてLINEで共有されるようになりました。
さらに、月1回の定例会議でも、
- こんなことがあった
- こう対応した
- 次からどうする
を全職員に伝えやすくなりました。
つまり、属人化を解体するとは、
誰かを責めることではなく、情報と判断を、施設の中に残していくこと
なんだと思います。

平時に見える危険信号
ここは、ぜひ自分の職場に当てはめて見てください。
1. みんなが「その人に聞けばいい」と言い始める
一見すると、信頼されているように見えます。
でも実際には、情報も判断も1人に集中している状態です。
2. 記録はあるのに、記録だけでは進められない
紙やデータが残っていても、
「このケースをどう見るか」が残っていない。
これはかなり危ないです。
3. 休みの日でも、その人に連絡が飛ぶ
本来なら施設の中で処理できるはずのことまで、そこに聞かないと進まない。
これは分かりやすい危険信号です。
4. 「前からこうしている」はあるのに、理由を説明できない
やり方は残っている。
でも、なぜそうしているのか、何を避けるためなのかが言葉になっていない。
これも典型的です。
5. 問題が起きていないことを、安全の証拠だと勘違いしている
一番危ないのはこれです。
事故がない。
クレームがない。
回っている。
でもそれは、たまたま支えている人がまだ倒れていないだけかもしれません。
今なら、こう考える
当時の僕は、責任感で全部拾っていました。
それしかないと思っていたし、実際それで回ってしまっていた。
だから余計に抜けられなかった。
でも今なら思います。
「あの人がいれば回る」は、褒め言葉に見えて、施設にとっては危険信号です。
優秀な人がいること自体は悪くない。
問題は、その人が配線図そのものになってしまうことです。
属人化は、事故が起きた後に反省する話じゃない。
回っている時に、もう始まっている。
だからこそ、壊れてから人を責めるんじゃなくて、
壊れる前に構造を変えなきゃいけない。
そう思っています。
まとめ|属人化は、崩れた時に気づくんじゃない。回っている時に、もう始まっている
属人化が怖いのは、仕事が偏ることではありません。
その偏りが、平時には“優秀な人が支えている状態”に見えてしまうことです。
僕の現場でも、書類、家族対応、トラブル対応、制度判断の裏側が、ほぼ管理者1人に集中していました。
その結果、数ヶ月ぶりの有給すら守れなかった。
家庭の時間まで壊れた。
でも、書式固定、記録化、共有、ChatGPT活用で、少しずつ変わりました。
質問回数は1日10回から2〜3回へ減少。
有給中の連絡も、ほぼ来なくなりました。
完璧なマニュアルが最初から必要だったわけじゃありません。
必要だったのは、
見えない仕事を、見える途中状態にすることです。
属人化は、崩れた時に気づくんじゃない。
回っている時に、もう始まっている。
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