第29話|家族説明が一番怖い理由 事故よりつらいのは「事実」と「感情」がずれた時です

デイサービスの管理をしていると、本当に怖いのは事故そのものではなく、家族説明だと思うことがあります。
転倒した。
ぶつかった。
怪我をした。
こういう出来事なら、まだ整理しやすいです。
何が起きたか。
どう対応したか。
今後どう防ぐか。
そこを順番に説明すればいい。
でも、もっと難しい場面があります。
本人の訴えと、現場の事実がずれている時です。
本人は「いじめられている」と言う。
家族はそれを聞いて怒る。
でも現場では、そういう事実は確認できない。
この時、管理者はかなり苦しい場所に立たされます。
今回は、僕が「事故より家族説明の方が怖い」と思った実例を書きます。
冬になると休みが増えた利用者さんだった
その方は、90代の女性。
要介護1で、中程度の認知症がある方でした。
冬になってくると、利用を休む電話が増えてきました。
理由はいろいろでした。
- 風邪をひいている
- 咳が止まらない
- 膝が痛くて動けない
- 午前中に家族が来る
でも、確認していくと、それらは全部本当の理由ではありませんでした。
特に大きかったのは、
「他の利用者さんが私のことを悪く言っている」
という訴えです。
本人は、家族にそう話していたようでした。
高齢の母親からそんな話を聞けば、家族が怒るのは当然です。
実際、長女さんはかなり怒っていました。
ただ、こちらでもケアマネや、ケアマネ経由で訪問看護に確認していくと、見えてきた本音は別でした。
寒くなってきて、外に出たくない。
それが本音だったんです。
でも本人の中では、それをそのまま言うのではなく、
「いじめられているから行きたくない」
という形で表現されていた。
ここが、本当に難しいところでした。
一番怖かったのは、家族の不信感から全部が崩れることだった
この時、僕が一番怖かったのは、家族の不信感から利用中止になり、それがケアマネにも波及することでした。
本人が嫌な思いをした。
家族が怒った。
そこまでは分かる。
でも家族から見れば、それは
「このデイサービスの質が悪い」
という話になります。
そしてその印象がケアマネに伝われば、今後の紹介にも影響が出る。
つまりこの問題は、
- 本人の利用継続
- 家族の信頼
- ケアマネとの関係
- 今後の紹介
全部につながります。
一人の感情の話で終わらない。
管理者としては、そこが本当に怖かったです。
長女さんのメールは、かなり重かった
長女さんからはメールが来ました。
内容は、怒鳴っているわけではありません。
でも、不信感も困惑もにじんでいました。
「朝からお騒がせしてすみません。休む理由はやっぱりウソですが…」
そこから、他の利用者との関係や、本人が行きたくない理由をちゃんと話すように伝えていることが書かれていました。
この文章、かなり重いです。
怒りだけではない。
困っている。
どう受け止めればいいか分からない。
その感じが文章から伝わってきました。
その後、担当者会議が開かれることになりました。
その時の娘さんは、もう
「やめます」
という気持ちがかなり強かったです。
「もう迷惑はかけられないので、やめた方がいいんじゃないかなと思ってます」
そう言われました。
管理者としては、かなり胃が痛い場面でした。 :contentReference[oaicite:2]{index=2}
本人の訴え、現場の事実、家族の感情。この3つを分けて考えた
この時、僕はまず謝りました。
本人が嫌な気持ちになっている。
その事実に対しては、まず謝るべきだと思ったからです。
ただ同時に、現場の事実として、
「いじめているということはない」
という認識も持っていました。
スタッフも常に見ていたし、そこは間違いない。
だから、本人の訴えをそのまま事実として受け取ることもしませんでした。
ここで大事なのは、3つを混ぜないことです。
- 本人の訴え
- 現場の事実
- 家族の感情
本人は本当に嫌な気持ちになっている。
そこは否定してはいけない。
現場では、いじめの事実は確認できない。
そこも曲げてはいけない。
家族は、母親からそう聞けば怒るし、不安にもなる。
それも自然な感情です。
この3つを混ぜると、説明は崩れます。
以前の僕は、腫れ物に触るように対応していた
昔の僕なら、こういう流れになった時、とにかく徹底的に謝って、何とか続けてもらおうとしていたと思います。
- 家族に悪い印象を持たれたくない
- ケアマネに悪く思われたくない
- 利用中止になってほしくない
そういう気持ちが強かった。
だから、家族対応はずっと腫れ物に触るような対応になっていました。
でもこの時、ふと思ったんです。
「このまま続けても、お互いのためにならないな」
本人が本当に嫌な思いをしているなら、無理に通ってもらうことが本人のためになるとは限らない。
こちらとしても、送迎が遅れるなどの現実的な問題もある。
だから僕は、かなり正直に話しました。
- 一旦利用中止して、他のところへ行った方が本人のためになるかもしれない
- もし今後もうちに通うなら、利用時間や利用曜日を変える方法もある
これは、昔の僕なら言えなかったと思います。 :contentReference[oaicite:3]{index=3}
家族が選んだのは「環境を変えない」ことだった
最終的に家族から出た意見は、少し意外なものでした。
「今のまま環境を変えるより、環境を変えない方が認知症を悪化させないと思う。だから、このままでいい。」
そういう判断でした。
僕の本音としては、
「それだったら何も変わらないじゃないか」
と思いました。
構造としては、何も変わらない。
また同じことが起きるかもしれない。
そう思ったんです。
でも、そこは家族の判断でした。
だからこちらとしては、現場でできる対策を取るしかありませんでした。
- この方が誰かとコミュニケーションを取る時は、スタッフが必ず間に入る
- 訪問看護が送り出しをしてくれる体制を作る
その結果、暖かくなってからは、行きたくないという訴えもなくなりました。
他利用者さんにいじめられるという訴えも、なくなりました。
つまり結局、「いじめ」そのものが原因だったというより、冬の外出意欲低下や認知症による訴えの変化が大きかったということです。
今は「続けてもらうため」ではなく「本人にとって何がいいか」で話す
この経験のあと、家族説明に対する自分の基準はかなり変わりました。
今は、家族に悪い印象を持たれないようにとか、ケアマネに悪く思われないようにとか、そこを最優先にはしていません。
もちろん信頼は大事です。
でも、それ以上に、
本人にとって何がいいかを本音で言う
ようにしています。
続けた方がいいと思えばそう言う。
辞めた方がいいと思えば、そう言う。
曜日変更や時間変更がいいと思えば、それも提案する。
要するに、
「続けてもらうための説明」
ではなく
「本人のための説明」
に変えたんです。
その方が、結果的に家族との関係もまっすぐになります。
今は看護師もいるので、たとえば
「咳がひどくて休みたい」
という電話が来ても、
「じゃあ、うちの看護師が見ますね」
と言って来てもらうこともできます。
体制が変わると、説明の仕方も変わる。
ここも大きいです。
まとめ|家族説明が怖いのは、感情と事実がずれるから
今、読者に一番伝えたい結論はこれです。
家族説明が怖いのは、怒られるからだけではありません。
本人の訴え、現場の事実、家族の感情がずれるからです。
この3つがずれた時、管理者は一番苦しい場所に立たされます。
でも、その場で大事なのは、
- 本人の気持ちは否定しない
- 現場の事実は曲げない
- 家族の感情は軽く扱わない
- そのうえで、本人にとって何がいいかを本音で話す
この順番だと思っています。
家族説明は怖いです。
でも、怖いからこそ、続けてもらうための言葉ではなく、本人のための言葉で話さないといけない。
僕は今、そう考えています。
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