職員から「辞めたい」という話が出た時、管理者が最初にやりたくなることは、たぶん同じです。

なんとか止めたい。
何が不満だったのか知りたい。
条件を変えれば残るのか確認したい。

でも、現場によっては、その順番がもう違います。

特に、直属上司ではなく社長や会長に先に辞意が上がる職場では、管理者のところに話が来た時点で、本人の気持ちはかなり固まっていることがあります。

離職面談・退職面談の初動で大事なのは、いきなり引き止めることではありません。

まず見るべきなのは、
本音がどこで切れたのか。
誰との間で情報が止まったのか。
その人を残すことで、組織の線引きが壊れないか。

この記事では、デイサービス管理者として僕が実際に経験した離職対応をもとに、離職面談・退職面談の初動で管理者が確認すべきことを整理します。

この記事の結論
離職面談の初動で最初にやるべきことは、説得ではありません。

まず確認すべきなのは、
表向きの退職理由と本音のズレ
辞意が直属上司ではなく別ルートに流れた理由
引き止めた後に組織が壊れないかです。

辞める話は、最後の一言で始まるのではありません。
その前から、情報・態度・関係性のどこかで切れ始めています。


離職面談の初動で管理者がやりがちな失敗

離職面談・退職面談の初動で、管理者がやりがちな失敗があります。

それは、
話を聞く前に、すぐ引き止めようとすることです。

もちろん、残ってほしい職員なら止めたくなります。

「何が不満だったのか」
「条件を変えたら残れるのか」
「もう少し考えてくれないか」

こう言いたくなるのは自然です。

でも、本人の気持ちがかなり固まっている場合、いきなり引き止めても逆効果になることがあります。

なぜなら、本人の中ではもう、

  • 相談ではなく決定事項になっている
  • 表向きの理由だけ話す準備ができている
  • 本音を話す気持ちは残っていない
  • 直属上司より先に別ルートへ話が流れている

という状態になっていることがあるからです。

離職面談の初動は、説得ではなく状況確認から入る方が安全です。

ここを間違えると、本音はさらに閉じます。


直属上司に辞意が来ない職場では情報がねじれる

うちの会社は少し特殊です。

大きい会社ではないからか、辞める時は直属の上司である僕ではなく、先に社長へ言う流れがかなり多いんです。

しかも、それが半ば当たり前の社風になっています。

僕としては、かなりやりにくいです。

本来なら、社長の耳に入る前に止められるなら止めたい。
でも実際は、社長に先に話が上がる。

そのうえ、僕に不満を持って辞める職員の話を、社長や会長がそのまま受け取ることもあります。

この構造の何がしんどいか。

一番しんどいのは、
直属上司が一番最後に知ることです。

辞めたいと思うまでの温度変化。
小さな不満。
言いづらさ。
他部署とのズレ。
給料への不満。
働き方への違和感。

本当はそのあたりを、早い段階で拾えたら違ったかもしれない。

でも、社風として社長へ先に言うのが正しいことになっていると、そこが飛びます。

結果として、直属上司に話が来た頃には、こうなりやすいです。

  • すでに本人の気持ちが固まっている
  • 社長側にも情報が入っている
  • その情報が本人にとって都合のいい形になっていることがある
  • 直属上司が状況を確認する前に、経営側の印象ができている

この状態で離職面談をしても、普通の面談とは意味が変わります。

説得の場ではありません。
本音の採取も、かなり難しい。

むしろ、
情報断絶がどこで起きたかを確認する場
に近いです。


60代女性職員の退職は1年前から始まっていた

離職は、本人が「辞めます」と言った日に始まるとは限りません。

今回の主役にするのは、60代の女性職員です。

この人は、いわゆるお局的な立ち位置の人でした。
僕が管理者をやる前の管理者と仲が良く、以前はパートになる前に正社員として働いていたらしいです。
デイサービスと訪問介護、両方に所属していました。

正直に言うと、僕には少しきつく当たってきていました。
新しく入ってくる職員にも厳しいタイプでした。

辞める流れは、ある日突然始まったわけではありません。

今思えば、1年くらい前からもう始まっていました。

デイサービスの勤務を週1回に減らしてほしいと言われたんです。

よく聞くと、他のデイサービスでパート勤務を始めていて、そちらの時給がうちより200円ほど高かった。

その時点で、僕は薄く思っていました。

このまま辞める流れなんだろうな。

でも、薄く気づいていただけで、止められたわけではありません。

離職は「辞めます」と言われた日に始まるのではなく、勤務量・態度・情報共有の変化として先に出ることがあります。

ここを見落とすと、離職面談の初動が遅れます。


退職の第一声が「社長にはもう言ったから」だった

その日も突然でした。

昼。
送迎から帰ってきた時です。

その人がさらっと言いました。

もう今月で辞めるからよ。社長にはもう言ったからよ。

これが第一声でした。

相談ではありません。
確認でもありません。
決定事項の通告です。

数時間後、社長からも
「あの人が辞めると言ってきた」
という話が来ました。

社長や会長は、その人が長く働いてくれていたから、何とか引き止めたかったようです。
だから訪問介護の方では1か月ほど長引いたようです。

でも、僕が管理しているデイサービスの方は、そのまま止めてもらいました。
引き止めることはしませんでした。

この時点で、僕の中ではかなりはっきりしていました。

直属上司に最初の相談がない離職は、面談の時点でかなり終盤です。

ここで無理に引き止めると、かえって組織の線引きが崩れる可能性があると感じました。


退職理由は表向きと本音がズレることがある

退職理由には、時給や勤務日数などの表向きの理由と、働きづらさや変化の負担などの本音がズレることがあると示した図解
退職理由は、本人が話しやすい形に整理されていることがあります。管理者は理由そのものだけでなく、その背景にある負担も見る必要があります。

表向きの理由は分かりやすかったです。

新しいデイサービスの方で、もっと稼ぎたい。
そちらの時給の方が高い。
だから勤務を減らしたい。
最終的にはそちらへ寄せたい。

これは一応、筋の通った理由です。

でも、本音はたぶんそこだけじゃありません。

今振り返ると、その人は僕の管理下では働きたくなかったんだと思います。

それまで正しいと思っていたことを、僕がかなり覆していったからです。

  • パソコン化を進める
  • 業務のやり方を変える
  • 稼働率を上げる
  • 忙しさが増す
  • でも時給は上がらない

このズレは大きいです。

本人から見れば、こう見えていたはずです。

  • 昔のやり方はどんどん変わる
  • 自分の立場は少しずつ危うくなる
  • 忙しさは増える
  • でも報われている感覚は薄い

しかも、その不満を直属上司の僕に正面からぶつけるのではなく、社長や会長の方へ持っていく。

そうなると、本音はさらに見えにくくなります。

退職理由でズレやすい部分

・表向き:時給が高い職場へ行きたい
・本音:今の管理者の下では働きづらい
・表向き:勤務を減らしたい
・本音:現場の変化についていきたくない
・表向き:家庭や体調の都合
・本音:職場の人間関係や役割に疲れている

もちろん、すべての退職理由に裏があるとは限りません。

ただ、管理者は、表向きの理由だけで判断しない方がいいです。

退職理由は、本人が話しやすい理由に整えられていることがあります。


離職面談の初動で確認すべき5つのこと

離職面談の初動で、表向きの理由、本音のズレ、情報ルート、前兆、引き止め後の影響を確認する5つの視点を示した図解
離職面談の初動では、すぐ説得に入るよりも、まず何がどこで切れていたのかを確認することが重要です。

離職面談・退職面談の初動では、いきなり条件交渉に入らない方がいいです。

まず確認すべきことは、次の5つです。

確認項目見るポイント質問例
1. 表向きの理由給料・勤務日数・家庭事情など「今回の一番大きな理由は何ですか?」
2. 本音のズレ本当は誰と何に疲れているのか「言いにくい部分も含めて、働きづらさはありましたか?」
3. 情報ルート誰に最初に話したのか「最初に誰へ相談しましたか?」
4. 前兆口調・報告・欠勤・距離感の変化「いつ頃から気持ちが変わっていましたか?」
5. 引き止め後の影響特別扱いや前例化で組織が壊れないか「残るなら、どんな条件なら現実的ですか?」

この5つを見ずに、すぐ条件交渉に入るのは危ないです。

もちろん、残ってほしい職員もいます。
引き止めるべきケースもあります。

でも、その前に見るべきものがあります。

この離職は、本人の問題なのか。 組織の問題なのか。 管理者との関係の問題なのか。 それとも、すでに引き止める段階を過ぎているのか。

ここを見極めないと、離職面談はただの説得になります。


離職面談で本音を聞くための質問例

「本音を聞く」と言っても、いきなり核心を聞くと相手は閉じます。

特に、もう辞める気持ちが固まっている職員に対して、

何が不満だったんですか?

と聞いても、本音は出にくいです。

責められているように感じるからです。

だから僕なら、今はこう聞きます。

離職面談で使いやすい質問例

・いつ頃から、辞めることを考え始めていましたか?
・一番しんどかったのは、業務ですか、人間関係ですか、働き方ですか?
・こちらが気づけていなかった負担はありましたか?
・もう少し早く聞けていたら、変えられたことはありましたか?
・もし残る余地があるとしたら、何が変わる必要がありますか?
・逆に、もう気持ちとして戻れない部分はありますか?
・今後、同じことを他の職員に起こさないために、管理者として何を見ておくべきでしたか?

ここで大事なのは、引き止めるために聞くのではないことです。

もちろん、残る可能性があるなら検討します。

でも、それ以上に大事なのは、
次に同じ離職を起こさないために、どこで関係や情報が切れていたかを回収することです。

離職面談は、退職者を責める場ではありません。

管理者が、現場の構造を見直すための最後の聞き取りでもあります。


離職面談で引き止めない方がいい場面

離職面談で引き止める前に、本人の気持ち、条件の現実性、組織への影響を確認し、残すか慎重に見送るかを判断する分岐図
離職面談では、残ってほしい気持ちだけで判断しないことが大切です。引き止めた後に組織の線引きが壊れないかを確認します。

ここも大事です。

僕は、何でも引き止めればいいとは思っていません。

もちろん、引き止めて働いてもらって、その後に変わることもあります。
でも一方で、条件を変に飲んでしまう怖さもあります。

たとえば、こういうことです。

  • その人だけ特別扱いになる
  • わがままに近い条件まで通る
  • 他の職員にも同じ条件を求められる
  • 管理者側の主導権がどんどん薄くなる
  • 残った職員にしわ寄せが行く

これはかなり怖いです。

特に、小規模で人間関係が濃い職場では、一人の離職対応が、そのまま組織ルールの前例になります。

だから僕は今、

引き止めるかどうかより、引き止めた後に組織が壊れないか

を先に見ます。

ここを見ないで感情だけで残してしまうと、今度は別の場所で歪みが出ます。

引き止める前に見ること

・その条件は他の職員にも説明できるか
・特別扱いにならないか
・残った職員にしわ寄せが行かないか
・本人の気持ちは本当に戻るのか
・組織ルールより個別事情が優先されすぎていないか

一人を残すために、組織全体の線引きを壊すと、次の離職リスクが生まれます。


離職前のサインは口調・報告・距離感に出る

今回の話でも、結局ここに戻ります。

社長に辞めると言う前に、やっぱり兆候はあります。

  • 情報が少なくなる
  • 口調がきつくなる
  • 休みがちになる
  • 業務の協力が減る
  • 管理者との距離が明らかに変わる

これらは、離職の確定サインではありません。
でも、かなり重要な前兆です。

そして、直属上司に辞意が直接来ない職場ほど、この前兆を拾う力が必要になります。

なぜなら、最初の相談が飛ぶからです。

普通の会社なら、辞める前に上司へ少しずつ不満が上がるかもしれない。
でも、それが飛んでいきなり社長へ行くなら、現場では前兆しか拾えません。

だからこそ、

「辞めると言われた時に何を聞くか」だけでなく、「辞める前に何が減っていたか」を見ることが重要です。

離職面談は、退職の話が出た後だけの技術ではありません。

本当は、退職の話が出る前から始まっています。


離職対応後に管理者が見直すべきこと

離職面談が終わった後、管理者がやるべきことがあります。

それは、本人への対応だけで終わらせないことです。

退職する人が悪かった。
相性が悪かった。
給料が高い職場に行っただけ。

そう整理すると、現場は何も変わりません。

見直すべきなのは、こういう部分です。

見直すこと確認するポイント
情報共有報告・相談が減っていなかったか
業務負担特定の職員に偏っていなかったか
給与・時給感外部との差をどう受け止めるか
変化の負担業務変更を一方的に進めていなかったか
相談ルート直属上司に本音が上がる形があったか

この振り返りがないと、同じ形の離職がまた起きます。

僕自身も、今回の件で思いました。

もっと早く聞けたことはなかったのか。
デイの勤務を週1回に減らした時点で、もっと踏み込むべきだったのではないか。
時給差200円の話を、ただ「外部条件」として見ていなかったか。
業務変更の負担を、本人がどう感じていたか見切れていたのか。

答えは簡単ではありません。

でも、少なくとも今は、辞める一言だけを見るのではなく、
その前から何が減っていたか
を見るようにしています。


まとめ|離職面談の初動は説得より情報回収

離職面談・退職面談の初動で大事なのは、上手に引き止めることではありません。

特に、直属上司ではなく社長に先に辞意が上がるような職場では、その時点でかなり決まっていることが多いです。

だから最初にやるべきことは、説得ではありません。

  • 本音は何か
  • 表向きの理由とズレていないか
  • いつから前兆が出ていたか
  • 誰と誰の間で情報が切れたか
  • もし残る余地があるなら、何が変わればよかったのか
  • 引き止めた後に、組織の線引きが壊れないか

ここを確認することです。

そしてもう一つ大事なのは、変に引き止めないことです。

一人を残すために、組織の線引きを壊してしまうと、そのしわ寄せは必ず別の職員へ流れます。

僕は今、離職の話が出た時ほど、その人一人だけではなく、

この職場の構造がどこで崩れていたのか

を見るようにしています。

離職は、最後の言葉より前に始まっています。

だから管理者が見るべきなのは、
「辞めます」の一言そのものではなく、
その前から切れ始めていた情報と関係です。


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リハビリ特化型デイサービスの現役管理者。 現場運営・稼働率改善・スタッフ管理など、実際のデイサービス経営のリアルを発信しています。 これまで複数のデイサービス事業所で勤務し、稼働率が低迷していた事業所の改善に携わる。 担当した事業所では、稼働率を58.5%から79.8%まで改善。 ケアマネジャーとの関係づくり、紹介数を増やす営業方法、現場オペレーション改善など、 現場経験をもとにした実践的なノウハウをまとめています。 「現場で本当に使えるデイサービス経営」をテーマに、 管理者・生活相談員・デイサービス経営者向けに情報を発信しています。