高齢者支援をしていると、
「困っているなら助ければいい」
では済まない場面があります。

明らかに体調が悪い。
こちらは安全のために支援を提案している。
家族に連絡した方がいい。
病院へつないだ方がいい。

でも、その支援がそのまま拒否に変わる瞬間があります。

しかも、それはわがままではなく、
本人のプライド
だったりします。

今回は、体調が明らかに悪化した利用者さんに対して、こちらが家族連絡を提案した瞬間、本人が強く怒った事例を書きます。

そしてそこで見えたのは、
支援の必要性と高齢者の自尊心は、時に真正面からぶつかる
ということでした。


弱音を吐かない、高齢男性だった

その方は70歳の男性。
要介護1。
心不全の既往歴があり、血圧の左右差もある方でした。
バイアスピリンも服用されていました。

性格はかなりプライドが高い。
警察官としてバリバリ働いてきた人で、堅物。
弱音は吐かない。
奥さんとの二人暮らしで、家庭内でも厳格な旦那さんという印象の方でした。

こういう方は、体調変化そのものより、
「弱った自分を見せること」
に強い抵抗が出ることがあります。

当時はそこまで言語化していなかったですが、今振り返ると、まさにそういうタイプでした。


最初の異変は、マッサージ機の5分後に出た

その日は、2回目の排便のあとにマッサージ機へ座ってもらいました。

それから5分くらいした頃です。

  • 顔がうつむいた感じになった
  • 生あくびが出ている
  • 顔色も白い

声をかけても応答がありませんでした。

これはもう危ないと思って、すぐに車椅子へ移乗し、ベッドへ寝てもらいました。

血圧を測ると120台。
左右とも血圧差はありませんでした。

ただ、ベッドへ寝たあとは反応があり、顔色も戻ってきました。

数字だけ見れば、そこまで極端な異常ではない。
でも、明らかに一度意識が落ちていた。

こういう時って、現場ではかなり迷います。
ただ今回は、迷うより先に
「一旦帰宅して受診につなげた方がいい」
と判断しました。


本人が怒ったのは「帰る」でも「病院」でもなかった

意識消失があったことを踏まえて、僕は本人にこう伝えました。

「一旦お家に帰って、病院に行きましょう」

本人は
「分かった」
と受け入れました。

つまり、帰ることも病院へ行くことも拒否していなかった。

でも、次に僕が
「じゃあ奥さんに伝えるね」
と言った瞬間、一気に怒りました。

めちゃくちゃ怒ったんです。

つまりこの方が拒否したのは、受診ではない。
奥さんに知られること
でした。

その時、本人は感情を爆発させて言いました。

「妻には連絡するな」

意識消失した直後です。
それでも、その一言はかなりはっきり出ました。

ここで僕は思いました。

ああ、この人は「帰る」「病院に行く」が嫌なんじゃない。 奥さんの前で、弱った自分になることが嫌なんだ。


高齢者が守っているのは、体ではなく「役割」のことがある

この場面って、支援する側からするとかなり不思議に見えることがあります。

体調は明らかに悪い。
一度意識も落ちている。
家族に連絡して、早めに帰って、病院へ行く。
それが普通の流れです。

でも本人はそこに反発する。

なぜか。

今の僕は、こう考えています。

この方が守ろうとしたのは、体調そのものではなく、
自分の役割
だったんだと思います。

奥さんに対して、強い自分でいたい。
頼られる側でいたい。
弱った姿を見せたくない。

警察官として働いてきて、家庭でも厳格な旦那さんでいた人にとって、
「妻に連絡する」
は単なる連絡ではなかった。

それは、
自分が助けられる側に回ったことを認める行為
だったんだと思います。

だから怒った。

この視点がないと、
「なんでここで怒るの?」
で終わってしまいます。


僕は一旦引いた

この時、僕は一度引きました。

感情をさらに刺激して、そこでまた急変したら困る。
だから、その場では一旦離れました。

5分ほど置いて、本人が少し落ち着いたところで、再度声をかけました。

「突然早く帰ってきたら、奥さんもびっくりするだろうから、伝えていいかい」

今度は、頷きました。

この時に思ったのは、
正しいことを早く言えば通るわけではない
ということです。

こちらは安全のために言っている。
でも相手がまだパニック状態だったり、感情が爆発している時にそれをぶつけると、支援そのものが拒否に変わる。

この5分は短いようで大きかったです。


後から思ったのは、「声かけが少し早かったかもしれない」ということ

この件のあと、かなり反省しました。

僕の声かけ、少し早すぎたかもしれないな、と。

もちろん現場はバタバタします。
急変時は時間との勝負です。
家族連絡も、受診の調整も、早く動いた方がいい。

でも一方で、本人の感情がまだ整理されていないタイミングで、
「家族に言う」
という一番プライドに触れる言葉を出したのは、少し早かったと思っています。

たぶんこの時の本人は、まだパニック状態でもあったんでしょう。

今は、こういう場面では
相手が少し落ち着いてから声をかける
ことを意識するようになりました。

もちろん急変時なので、いつも完璧にタイミングを見られるわけではありません。
でも、支援の正しさだけで押し切らないようにはしています。


支援を押すべき場面と、面子を守るべき場面は違う

この件でかなりはっきりしたことがあります。

支援が必要だからといって、全部を真正面から押せばいいわけではない。

特に高齢男性で、長く家庭や仕事で
「自分が支える側」
だった人は、弱った姿を見せることそのものが苦痛だったりします。

だから今の僕は、

  • 命に関わる判断は譲らない
  • でも、その伝え方と順番は工夫する

という形で分けています。

受診につなぐことは譲らない。
家族連絡も必要ならする。
でも、本人の面子を全部潰すような言い方はしない。

つまり、
支援の中身は守る。 でも、本人の尊厳が壊れない順番で出す。

これを意識するようになりました。


まとめ|高齢者のプライドは、支援そのものを拒否に変えることがある

今、読者に一番伝えたい結論はこれです。

高齢者のプライドは、時に必要な支援そのものを拒否に変えることがあります。

今回のケースでは、

  • 意識消失があった
  • 受診の必要性は高かった
  • 帰宅や病院は受け入れた
  • でも「妻に連絡する」で感情が爆発した

ここに、高齢男性のプライドがはっきり出ていました。

以前は、危ないなら早く支援を入れるのが正しいと思っていた。
でも今は、
危険な時ほど、本人の面子が壊れない順番で支援を出すことが大事
だと思っています。

命を守ることは譲れない。
でも、その伝え方ひとつで、支援は拒否に変わる。

管理者の仕事は、命を守るだけではなく、
その人が守り抜きたい「役割」まで見ながら支援の順番を考えること
でもあるのだと、今は思っています。


関連記事

拒否の背景をもっと深く見たい方へ
第33話|「デイに行きたくない」と言われた日|拒否の裏にある高齢者のプライドと管理者の対応

急変対応の空気と判断を見たい方へ
第40話|看護師がいないと回らない日|デイで急変が重なった時の空気

管理者の仕事全体を追いたい方へ
リハビリ特化型デイサービス管理者の仕事ロードマップ

ABOUT ME
リハビリデイ管理者
リハビリ特化型デイサービスの現役管理者。 現場運営・稼働率改善・スタッフ管理など、実際のデイサービス経営のリアルを発信しています。 これまで複数のデイサービス事業所で勤務し、稼働率が低迷していた事業所の改善に携わる。 担当した事業所では、稼働率を58.5%から79.8%まで改善。 ケアマネジャーとの関係づくり、紹介数を増やす営業方法、現場オペレーション改善など、 現場経験をもとにした実践的なノウハウをまとめています。 「現場で本当に使えるデイサービス経営」をテーマに、 管理者・生活相談員・デイサービス経営者向けに情報を発信しています。