新人が育たない時、本人だけを見ていると本質を外します。

もちろん、本人に課題があることはあります。

メモを取らない。
覚えが遅い。
利用者さんとの会話がかみ合わない。
介護職としての態度に違和感がある。

現場から見ると、そこに目が行くのは当然です。

でも、管理者として本当に見るべきなのは、そこだけではありません。

新人が育たない職場では、本人の能力不足だけでなく、受け入れ体制・教育基準・現場の空気にも問題が隠れていることがあります。

この記事では、デイサービス管理者として実際に経験した「育てられなかった職員」の話をもとに、介護現場で新人が育たない理由と、採用基準より先に整えるべき受け入れ体制を整理します。

この記事の結論
新人が育たない原因は、本人の能力不足だけではありません。

面接なし採用、教育基準のズレ、教える側のプライド、現場の排除圧力が重なると、職場は静かに「育てること」を諦め始めます。

管理者が見るべきなのは、誰を採るかだけではなく、どんな人が来ても一定ラインまで育てられる受け入れ体制があるかです。


新人が育たない職場は本人だけを見ている

新人が育たない時、最初に見えるのは本人の課題です。

「あの人は覚えない」
「メモを取らない」
「向いていない」
「なんで採ったのか」

介護現場では、こういう声が出ることがあります。

もちろん、それが全部間違いだとは思いません。
実際に、一定の能力差があることはあります。

ただ、そこで止まると危ないです。

なぜなら、本人に課題があるとしても、
その人を受け入れる職場側の設計が弱い場合、育つ可能性まで潰してしまうからです。

介護現場は、ただでさえ人手不足です。

これから先、最初から即戦力の人だけを採れるとは限りません。
経験が浅い人、年齢が高い人、事情を抱えた人、介護に向いているか分からない人も入ってきます。

その時に、毎回「あの人は無理だった」で終わっていたら、職場はずっと人手不足のままです。

育たない人を見る前に、育てられる職場だったかを見る。

これが、今回の話で一番伝えたいことです。


面接なし採用は受け入れ体制の弱さが出やすい

2年ほど前、46歳の女性がパート介護職員として入ることになりました。

その方の家族が、うちのケアマネの利用者さんでした。
その縁があって採用になりました。

しかも、面接なしです。

会社が許可した採用でした。
社長判断です。

僕としては、本当は面接をしたかったです。
どんな縁がある人でも、絶対に自分のフィルターは通したかった。

でも、社長命令だったので何もできませんでした。

この時点で、今振り返るともう入口が少し崩れていました。

採用って、能力を見るだけではありません。

  • その人が今の職場で働けそうか
  • 現場の空気に合いそうか
  • どこまで教育が必要そうか
  • 職場側がその人を受け止められそうか

ここを見る作業でもあります。

そこが飛んだまま始まっていました。

面接なし採用で抜けやすい確認

・本人の働き方の希望
・介護経験と実際の対応力
・利用者さんとの会話の癖
・メモや記録への姿勢
・職場がどこまで教育できるか

もちろん、縁故採用がすべて悪いわけではありません。

ただし、面接や見極めを飛ばすなら、
その分だけ受け入れ体制を厚くしておく必要があります。


新人本人に課題があっても職場側の設計は見る

公平に言えば、その新人職員にも課題はありました。

  • 教えてもメモを取らない
  • 介護職員としてはあまりよくない態度がある
  • 自分のことばかり話す
  • 利用者さんとの会話でも、話を引き出すより自分の話が多い

ここは、きれいごとでは済みません。

実際、介護技術もコミュニケーション技術も、一定の能力不足は否めなかったと思います。

後になって本人が話していたのは、

  • 昔いじめられた経験がある
  • 離婚した旦那さんからDVを受けていた
  • 精神的にかなりしんどい時期があった

という背景でした。

もちろん、背景があるからといって、現場で起きていた問題が消えるわけではありません。

利用者さんに対する対応が不十分なら、そこは修正しないといけない。
介護職として必要な姿勢が足りないなら、そこは伝えないといけない。

でも同時に、ここで
「やっぱり本人が悪かった」
で終わると、今回の本質を外します。

問題は、そういう人が入ってきた時に、
職場側がどこまで受け止める設計になっていたか
です。


介護現場のプライドが排除圧力に変わることがある

現場でできる職員と、新人に順番や基準を示して教えられる職員は別の力を持つことを比較した図解
現場でできることと、人に教えられることは別の力です。育成では、プレイヤー力だけでなく教育力も必要になります。

介護技術へのプライドは悪いものではありません。

うちの職員は、自分たちはある程度以上の質を持っていると思っています。

介護技術。
コミュニケーション技術。
現場での立ち回り。

そのプライド自体は、悪いことではありません。

むしろ、ある程度の誇りがあるから、現場の質が保たれる面もあります。

でも、この時はそのプライドが悪い方向に走りました。

能力差が大きい人が入ってきた時、
そのプライドは教育力ではなく、排除圧力に変わったんです。

最初の1週間くらいは、みんな教えようとしてくれました。
でも、1週間も経つと空気が変わりました。

「メモも取らない」
「全然覚えない」
「利用者さんとの会話も危ない」

そうやって、他のスタッフが危険視し始めました。

お局スタッフからは、

なんであんな人を入れたんですか?

とまで言われました。

他のスタッフの中にも、同じように思っていた人はいたはずです。

ここで痛感したのは、
能力の高いプレイヤーと、教える能力の高い教育者は別物だということです。

現場でできる職員と、新人に順番や基準を示して教えられる職員は別の力を持つことを比較した図解
現場でできることと、人に教えられることは別の力です。育成では、プレイヤー力だけでなく教育力も必要になります。

現場でできる人が、そのまま育成もうまいわけではありません。

このズレを、当時の僕はまだ十分に扱えていませんでした。


新人教育はマニュアルと基準がズレると詰みやすい

新人教育では、教える内容とタイミングがズレるだけで一気に難しくなります。

恥ずかしい話ですが、その時は教育制度がまだうまくできていませんでした。

だから、

  • 誰が教えるか
  • 何を先に教えるか
  • どこまでできたら次へ進むか

このあたりが、職員によって微妙に違っていました。

もちろん、忙しい現場だから仕方ない面もあります。

でも、仕方ないで済ませると、新人からするとかなりきついです。

Aさんにはこう言われる。
Bさんには違うことを言われる。
昨日は注意されなかったことを、今日は怒られる。

これが続くと、能力が高くない人ほど早く詰みます。

しかも、この新人職員は「私はできるんです」という空気も少し出していました。
実際にはできていないのに、本人の中ではそこまで崩れていない。

ここも難しいところです。

本人が感じている距離感と、周りが感じている距離感がずれている。

本人は、周囲と仲良くやれていると思っている。
でも周りは、「ちょっと一緒に働きたくないな」と思っている。

このズレが修正されないまま積み上がると、
職場は静かに育成を諦め始めます。

新人教育でズレやすいポイント

・誰が教えるか
・最初に何を教えるか
・どこまでできたら合格か
・できていない時に誰が伝えるか
・職員間で同じ基準を持てているか


3か月教育しても受け入れ体制の弱さは残った

結局、仕方がないから、3か月ほど僕がつきっきりで教育しました。

ある程度はできるようになりました。

でも、他のスタッフと比べると、やはり問題が起きる。

利用者さんの入居施設からも言われたことがあります。

無愛想に、誰を迎えに来たのかも言わないスタッフさんがいます。
御社のデイサービス、いつもスタッフさんが笑顔なのに、すごいもったいないですよ。

これはきつかったです。

現場の中で感じていた違和感が、外からも見える形になった瞬間でした。

つまり、本人に課題があったのは事実です。

でもそれ以上に、
そういう人が入ってきた時に、職場がどこまで支えられるかの設計が弱かった。

そこが本体だったと思います。


「教えても無理」の空気は育成停止のサイン

「教えても無理」という空気が出た時点で、育成はかなり厳しくなります。

今振り返ると、職場には
ある一定のレベルまでなら育てられる空気
はありました。

でも、それを超える能力差がある人が来ると、一気に崩れる。

「もう教えてもダメだわ」
「何回言っても無理」
「本人の問題だよ」

こういう空気が出た時点で、もうかなり厳しいです。

本人の成長余地がゼロというより、
職場側が“育てることをやめる空気”を作ってしまっている

これが、今回の本体です。

育てられない職場って、最初から冷たいわけではありません。

むしろ最初はちゃんと教えようとする。
でも、一定以上にズレた人が来た時、そこから先の仕組みがない。

だから、頑張りで支える。
頑張りが切れる。
そして「もう無理」に変わる。

この流れです。


退職理由の裏には職場でのしんどさがある

その人が辞める1か月前、突然こう言ってきました。

新しい施設に自分の親戚がいて、呼ばれたのでそちらに就職します。今までありがとうございました。

しかも今回は、社長経由ではなく僕に直接言ってきました。

なぜだったのかは、正直よく分かりません。

表向きの理由は、親戚のいる新しい施設への転職です。
でも、本当の離脱理由はたぶん別にあります。

働いていて、しんどかったんだと思います。

周りのスタッフからはレベルを求められる。
本人は背伸びして働く。
でも埋まらない差がある。
職場の空気は少しずつ冷える。

この状態で働き続けるのは、かなりきついです。

後でケアマネから聞いた話では、その新人職員は新しい職場に就職したあと、1年も経たずに辞めて、家に引きこもっているようだとのことでした。

これを聞いた時、少し引っかかりました。

もう少し育ててあげることはできなかっただろうか。
もしそれができていたら、次の職場ではもう少し長く働けたんじゃないか。

もちろん、自惚れかもしれません。

でも、そう考えてしまうくらいには、こちら側にも課題があったと思っています。


採用基準より先に受け入れ体制を整える

採用基準を厳しくすれば、すべて解決するわけではありません。

介護業界は本当に人手不足です。

以前、知り合った介護業界の先輩に言われたことがあります。

これからは人手不足だから、入ってくる人材はシルバー人材だったり、外国人人材だったり、今よりもっと幅が広がる。
だから優秀な人を採るより、どんな人が来てもある一定のレベルになる教育システムを整えないといけない。

その時も分かるようで、まだ腹落ちはしていませんでした。

でも今は、ものすごく痛感しています。

採用基準を厳しくすれば全部解決するわけではありません。
面接で全部見抜けるわけでもありません。
縁故採用や急ぎ採用も現場では起こります。

だから本当に必要なのは、
どんな人が来ても、一定ラインまでは育てられる仕組みです。

具体的には、こういうことです。

整えること目的
教える順番を決める人による指導のズレを減らす
最低限の基準を揃える何ができれば次へ進むかを明確にする
誰が教えてもズレにくくする新人が混乱しにくくなる
能力差が大きい人向けの補助線を持つ早期に詰ませない
「もう無理」の前に管理者が入る排除圧力を止める

たぶん、ここまで作ってやっと受け入れ体制です。

採用基準を上げることも大切です。
でも、採用基準だけに頼ると、人手不足の現場では限界があります。


介護現場の受け入れ体制で見る5つの視点

新人を育てる前に、採用入口、教育手順、合格基準、現場の空気、管理者介入を整える必要があることを示した図解
新人教育は本人の努力だけでは成立しません。採用入口、教育手順、基準、現場の空気、管理者介入を整えることで受け入れ体制が強くなります。

新人が育たない時、管理者が見るべきことを整理します。

見ること確認するポイント
1. 採用入口面接・見極め・働き方確認が抜けていないか
2. 教育手順教える順番が職員ごとに違っていないか
3. 合格基準どこまでできれば次へ進むか決まっているか
4. 現場の空気「教えても無理」の空気が出ていないか
5. 管理者介入排除圧力になる前に管理者が入れているか

この5つを見ずに、本人だけを評価すると危ないです。

もちろん、本人の課題を見ないという意味ではありません。

ただ、管理者は本人評価だけで止まらず、
受け入れ側の構造
まで見ないといけない。

ここを見ないと、次に似た人が入ってきた時も同じことが起きます。


よくある質問|新人が育たない職場で管理者が迷うこと

Q1. 本人に明らかな課題がある場合も、職場側を見るべきですか?

はい。
本人の課題は課題として見ます。

ただし、それだけで終わらせると再発します。

本人に課題がある時ほど、管理者は
「その課題をどこまで補助できる受け入れ体制だったか」
を確認した方がいいです。


Q2. 忙しい現場で新人教育マニュアルを作る時間がありません

最初から完璧なマニュアルを作る必要はありません。

まずは、以下の3つだけでも十分です。

  • 最初の1週間で教えること
  • 絶対に守ってほしい基準
  • できていない時に誰が伝えるか

これだけでも、教える人によるズレは減ります。


Q3. できる職員に教育係を任せればよいですか?

任せてもよいですが、丸投げは危険です。

現場でできる力と、人に教える力は別です。

教育係にするなら、
何をどの順番で教えるか、どこまでできたら合格か
を管理者が先に整理しておく必要があります。


Q4. 「教えても無理」という空気が出たらどうしますか?

その時点で、管理者が一度入った方がいいです。

本人の課題を確認するだけではなく、
職員側の教え方・基準・声かけ・距離感も確認します。

「誰が悪いか」ではなく、
どこで育成が止まり始めているか
を見るのが重要です。


まとめ|新人が育たない原因は職場側にもある

新人が育たない時、本人に課題があることはあります。

今回のケースでも、それは否定できません。

メモを取らない。
会話がずれる。
利用者対応で違和感が出る。

でも、そこで止まると管理者としては弱いです。

本当に見るべきなのは、

  • 面接なし採用でも受け止められる設計だったか
  • 教える内容と順番が揃っていたか
  • 高い技術を持つ職員のプライドが、教育力に変換されていたか
  • 一定以上に差がある人を支える補助線があったか
  • 「もう教えてもダメだわ」の空気が出る前に手が打てたか

このあたりです。

これから先、さらに人材不足は進みます。

今までなら採らなかったような人材を採用しないと回らない場面も、たぶん増えます。

だからこそ必要なのは、優秀な人だけを採ることではありません。

どんな人が来ても、ある一定のレベルまで育つ教育システムを持つことです。

優秀な人を待つのではなく、どんな人が来ても一定ラインまで育てられる仕組みを持つこと。

それが、これからの介護現場で必要な負けない構造だと、僕は思っています。


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リハビリデイ管理者
リハビリ特化型デイサービスの現役管理者。 現場運営・稼働率改善・スタッフ管理など、実際のデイサービス経営のリアルを発信しています。 これまで複数のデイサービス事業所で勤務し、稼働率が低迷していた事業所の改善に携わる。 担当した事業所では、稼働率を58.5%から79.8%まで改善。 ケアマネジャーとの関係づくり、紹介数を増やす営業方法、現場オペレーション改善など、 現場経験をもとにした実践的なノウハウをまとめています。 「現場で本当に使えるデイサービス経営」をテーマに、 管理者・生活相談員・デイサービス経営者向けに情報を発信しています。