第25話|「忙しくなるなら利用者はいりません」と言われた日 稼働率を上げたい管理者と現場の温度差

デイサービスの経営は、数字だけでは動きません。
現場には、人の感情があります。
そしてその感情は、ときに経営と真正面からぶつかります。
僕が管理者になったばかりの頃、
その現実をはっきりと突きつけられた出来事がありました。
「忙しくなるなら、利用者はいりません」
この一言は、今でも忘れていません。
稼働率50%台のデイサービスだった
僕が管理者を任された理由は、はっきりしていました。
社長から言われたのは、こうです。
「稼働率の低いデイサービスを立て直してほしい」
「職員の質を上げてほしい」
当時の稼働率は50%台でした。
利用者数は、
- 午前は3〜4名
- 午後も多くて8名
- 普段は5〜6名ほど
定員を考えると、かなり余裕があります。
現場はどうだったかというと、正直かなり暇でした。
利用者さんが少ない時間帯には、
- 職員が本を読む
- スマホを見る
- 雑談をする
そんな時間が普通にありました。
その時、ある機能訓練士が他のスタッフにこう話していたそうです。
「これくらいの利用者数が一番働きやすいんですよ」
「だから、このままでいいんですよ」
後から聞いた話ですが、この言葉は社長と会長の耳にも入っていました。
2人とも、かなり怒っていたそうです。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
「この人数が一番働きやすい」と言われた
ある日の夕方。
仕事終わりの掃除をしている時でした。
その日は、僕とその機能訓練士の2人きりでした。
その人が話しかけてきました。
「やっぱり、このくらいの利用者数がいいんですよ」
「忙しくなるなら、利用者はいりません」
そして最後に、こう言われました。
「あんたの価値観を押し付けるな」
この言葉は、今でもはっきり覚えています。
現場にとっての“働きやすい”と、管理者にとっての“続けられる”は、同じではありませんでした。
管理者と現場の温度差は、想像より深かった
その時、僕はすぐに思いました。
「この人たち、稼働率を計算していない」
この体制なら、稼働率70%以上は必要です。
そうでなければ、赤字になります。
つまり、
「この人数が働きやすい」
という言葉の本当の意味は、
「楽だから働きやすい」
ということでした。
もちろん、職員は疲れている様子もありませんでした。
教育もほとんどなく、情報共有の仕組みも整っていません。
当時は今のように、グループLINEで一斉に報告・連絡・相談する環境もありませんでした。
さらに、利用者が少ない日はパートの介護職員に、
「今日は帰ってもらえますか」
とお願いすることもありました。
それが当たり前になっていました。
現場の空気は、改善より現状維持に最適化されていたんです。
「赤字になります」と伝えた結果
僕は正直に伝えました。
「このままだと赤字が続きます」
「それだと、事業自体が続かなくなる可能性があります」
「一度、全部見直していきませんか」
「みんなで改善していきましょう」
すると、社長がいないところで言われました。
「あんたの意見を押し付けるな」
僕は聞きました。
「じゃあ、どうしたら赤字を改善できますか?」
返ってきた答えは、
「そうですねぇ……」
それだけでした。
具体的な意見は出ませんでした。
今思えば、その人も本当は分かっていたんだと思います。
このままではダメだと。
でも、変えるのは面倒。
自分は変わりたくない。
だから、何も言わない。
それが現状を守る一番の方法だったのかもしれません。
僕はそれを、心の中でこう呼んでいました。
牛歩作戦。
でも、僕から見ればそれは、ゆっくり地獄に落ちていく作戦でした。:contentReference[oaicite:2]{index=2}
僕自身も、昔は同じ側にいた
実は僕も、同じ経験があります。
昔、飲食店を経営していました。
最初はFacebookなどで紹介され、お客さんも来てくれました。
でも、だんだん売上が落ちてきました。
その時の僕は、
「ヤバい」
「何とかしないと」
と思っていました。
でも、どうしていいか分からない。
そして人は、本当に追い込まれると、思考が止まります。
「今のままでいい」
「大丈夫だろう」
そう思い込むようになります。
やがて、
「今の自分は間違っていない」
そう思い込むようになります。
そして気づいた時には、誰からも見向きされない店が出来上がっていました。
だから僕は思いました。
目の前にいるこの人は、昔の自分と同じだ。
改革期だった。かなり強く変えた
その後、職員は少しずつ入れ替わっていきました。
振り返れば、かなり強く変えていったと思います。
当時の自分は、
「間違っていることは変える」
と決めていました。
今振り返れば、
「言い方がきつかったな」
と思うこともあります。
でも、あの時の価値観のままだったら、今のデイサービスは存在していないと思います。
あの時必要だったのは、みんなに好かれることではなく、潰れない方向へ価値観を動かすことでした。
今の「働きやすい職場」は意味が違う
あの頃のデイサービスは、
利用者が少ない=働きやすい
という考え方でした。
でも今は違います。
今の僕たちが考える働きやすい職場は、
利用者さんが笑ってくれる場所を作れる職場
です。
問題が起きたら、
- その日のうちに解決する
- 解決できないならスケジュールを決める
- それでも無理なら構造を変える
そうやって、目の前の問題を一つずつ解決していきます。
忙しさではなく、
利用者の笑顔を作れるかどうか。
それが、今の僕たちの基準です。
働きやすさは、楽さではなく、意味のある忙しさを回せることに変わりました。
まとめ|稼働率を上げたい管理者と、現場の「楽でいたい」はぶつかることがある
今回の結論ははっきりしています。
デイサービス経営は数字だけでは動きません。
現場には感情がある。
そしてその感情は、ときに経営と真正面からぶつかります。
勘違いしやすいのは、
「働きやすい職場」を、利用者が少なくて楽な職場だと考えてしまうことです。
一番危ない見落としは、現場の“楽さ”を守ることが、そのまま事業の衰弱につながることです。
もちろん、現場を疲弊させろと言いたいわけではありません。
でも、赤字なのに変わらない。
改善策も出ない。
それで「このままでいい」と言い続けるなら、事業はゆっくり終わっていきます。
だから管理者に必要なのは、数字を見て、現場の温度差を受け止めながら、それでも潰れない方向へ構造を変えていくことです。
あの日の
「忙しくなるなら利用者はいりません」
という言葉は、現場と経営のズレをはっきり見せてくれました。
でも同時に、僕自身の過去も思い出させてくれました。
人は追い込まれると、変わるより止まる方を選びたくなる。
だからこそ管理者は、そこで止まらない役割を引き受ける必要があるんだと思います。:contentReference[oaicite:3]{index=3}
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第14話:職員の強気なLINEで気づいたこと
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