忙しくなるなら利用者はいりませんと言われた日|デイサービス管理者と現場の温度差

デイサービスの経営は、数字だけでは動きません。現場には人の感情があり、ときに経営と真正面からぶつかります。稼働率を立て直す管理者が、現場との温度差をどこから見直すか。僕が経験した出来事から整理します。
デイサービスの稼働率50%台で、現場に見えていた余裕
僕が管理者を任された理由は、稼働率の低いデイサービスを立て直し、職員の質を上げてほしいと言われたからでした。当時の稼働率は50%台。利用者数は午前3〜4名、午後は多くて8名、普段は5〜6名ほどでした。利用者さんが少ない時間には、本を読む、スマホを見る、雑談をする時間もありました。

ある機能訓練士は、他のスタッフに「これくらいの利用者数が一番働きやすいんですよ」「だから、このままでいいんですよ」と話していたそうです。後から聞いた話ですが、この言葉は社長と会長の耳にも入っていました。
「忙しくなるなら、利用者はいりません」と言われた日
ここで僕は、稼働率の数字だけでは判断を進められないと思いました。
ある日の夕方、仕事終わりの掃除をしている時でした。僕とその機能訓練士の二人きりで、その人が話しかけてきました。
「やっぱり、このくらいの利用者数がいいんですよ」
「忙しくなるなら、利用者はいりません」
そして最後に、「あんたの価値観を押し付けるな」と言われました。この言葉は、今でもはっきり覚えています。現場にとっての「働きやすい」と、管理者にとっての「続けられる」は、同じではありませんでした。

送迎の組み方によって、空きがあっても受けられない場面については、デイサービス送迎の制約と判断順序に分けて書きました。
赤字の可能性を伝えても、具体策は出なかった
その時、僕は「この人たち、稼働率を計算していない」と思いました。当時の僕は、この体制なら稼働率70%以上は必要で、そうでなければ赤字になると考えていました。「この人数が働きやすい」という言葉は、僕には「楽だから働きやすい」と聞こえました。
教育はほとんどなく、情報共有の仕組みも整っていませんでした。利用者が少ない日は、パートの介護職員に「今日は帰ってもらえますか」とお願いすることもありました。現場の空気は、改善より現状維持に最適化されていたのだと思います。
僕は「このままだと赤字が続きます」「事業自体が続かなくなる可能性があります」「一度、全部見直していきませんか」「みんなで改善していきましょう」と伝えました。社長がいないところで、もう一度「あんたの意見を押し付けるな」と言われました。
そこで「じゃあ、どうしたら赤字を改善できますか?」と聞くと、返ってきた答えは「そうですねぇ……」だけでした。具体的な意見は出ませんでした。当時の僕は、何も言わないことで現状を守ろうとする姿を、心の中で「牛歩作戦」と呼んでいました。でも僕から見れば、それはゆっくり地獄に落ちていく作戦でした。

僕自身も、昔は同じ側にいた
昔、飲食店を経営していた僕も、売上が落ちた時に「ヤバい」「何とかしないと」と思いながら、どうしていいか分かりませんでした。人は本当に追い込まれると、思考が止まり、「今のままでいい」「大丈夫だろう」「今の自分は間違っていない」と思い込むようになります。気づいた時には、誰からも見向きされない店が出来上がっていました。
だから、目の前にいるこの人は昔の自分と同じだと思いました。今思えば、その人も本当はこのままではだめだと分かっていたのかもしれません。でも、変えるのは面倒で、自分は変わりたくない。僕自身にも、その感覚はありました。
楽さではなく、利用者さんの笑顔を作れるか
その後、職員は少しずつ入れ替わり、僕もかなり強く変えていったと思います。今振り返ると「言い方がきつかったな」と思うこともあります。それでも、あの時の価値観のままだったら、今のデイサービスは存在していないと思います。
あの頃は「利用者が少ない=働きやすい」でした。今は、利用者さんが笑ってくれる場所を作れる職場を、働きやすい職場だと考えています。問題はその日のうちに解決し、解決できなければ日程を決め、それでも無理なら構造を変える。楽をすることと、働きやすさは同じではありません。

稼働率と赤字の関係を数字から見直した記録は、損益分岐点の話にまとめています。
まとめ|温度差を受け止め、それでも潰れない方向へ変える
デイサービス経営は数字だけでは動きません。管理者に必要なのは、数字を見て、現場の温度差を受け止めながら、それでも潰れない方向へ構造を変えていくことだと思います。「忙しくなるなら利用者はいりません」という言葉は、現場と経営のズレと、僕自身の過去を思い出させてくれました。
空きがあっても受けられない。デイサービス送迎の制約と判断順序数字だけでは解けない、もう一つの受入れ制約を読む。
満員でも儲からない感情の衝突を、経営数字から見直す。



